ホットハッチの頂点 ホンダ・シビック・タイプRの能力を探る RS3 ゴルフ R i30 N 4台比較 後編

公開 : 2023.03.18 09:47

質実に能力を磨き、揺るがない今回の主役

今回の試乗では、もっと楽しい設定を発見した。それは、サスペンションを柔らかいコンフォート・モードにし、エンジンとドライブトレインをダイナミック・モードし、スタビリティ・コントロールを弱めるというもの。

まるで、ランチア・デルタ・インテグラーレのような、痛快な特性を引き出せる。ボディロールは大きいが、カーブ外側のリアタイヤへ荷重をかけながら、踊るようにコーナリングできる。

ホンダ・シビック・タイプR(英国仕様)
ホンダシビック・タイプR(英国仕様)

RS3は確実に速い。センセーショナルでもある。ホットハッチのゲームチェンジャーといってもいい。能力の幅の広さには目をみはる。

ところが、今回の主役は揺るがない。シビック・タイプRは、往年のルノー・スポールのように、質実に能力を磨いている。ドライビングポジションは完璧で、操縦性のすべてに別次元の精度と透明性を得ている。

ドライブモードも備わるが、実際に機能的で、使う場面を考えやすい。滑らかな姿勢制御と、シンプルなリミテッドスリップ・デフが協働し、挙動は一貫していて掴みやすい。輝かしいほど。

複雑でブラックボックス的な技術を追求するより、ベーシックな技術を突き詰めた方が、大きな恩恵が得られることの証拠だと思う。恐らくホンダは、あえてシビック・タイプRを複雑にはしなかったのだろう。

四輪駆動やトルクベクタリングは必要ない

6速MTは、積極的に変速したいと思わせるほど好感触。ペダルレイアウトも完璧で、ステアリングホイールのシフトパドルを引くことと同じくらい、ヒール&トウでシフトダウンしやすい。ATとは違い、ECUは次に選ばれるギアを予想する必要もない。

ステアリングホイールの操舵感は軽快で、フィードバックは濃密でリアル。姿勢制御は引き締まっているものの、硬すぎることはない。リアアクスルは極めて安定している。今回の4台では実際に最も軽量だが、ひときわ軽く感じられる。

ホンダ・シビック・タイプR(英国仕様)
ホンダ・シビック・タイプR(英国仕様)

競合が注目を集めるような技術に傾倒し、自らのレシピを書き換えるなかで、ホンダは30年間もブレることがなかった。その結果、過酷な条件下での能力も向上している。

高い速度域で走るチャレンジングなルートでも、シビック・タイプRは落ち着き払っている。指先とつま先の感覚へ集中しながら、刺激的なドライビング体験に浸っていられる。まさに、外科用のメス。鋭く安定している。

粗野にアクセルペダルを傾けると、濡れた路面ではリミテッドスリップ・デフがロックし、ノーズが外へ流れてしまう。しかしトラクションが回復すれば、軽い車重が物をいう。一般道での絶対的なペースでは、RS3に及ばないとしても。

真剣に楽しめるホットハッチに、四輪駆動やトルクベクタリング機能が必要ないことを、シビック・タイプRは裏付ける。ひとつひとつを丁寧に磨き込むことで。神は細部に宿るのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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