ルノー・カングー・ゼン

公開 : 2014.05.26 17:03  更新 : 2017.05.29 19:22

1.2ℓカングーを走らせたとき快哉を叫びたくなるのは、マニュアルギヤとターボユニットのマッチングの良さである。これまでの1.6ℓモデルは1.4tという車重に少し負けているような気がするのだが、いつのまにかけっこうなスピードに達しているタイプ。1.2ℓターボをしてもやはり車重を完全に凌駕するほどのパワー感はないが、普通に走らせているつもりでもターボによってグングンスピードが伸びてシフトアップの必要に迫られて、そしてさらにスピードが高まって……。いつのまにか黄色い弾丸になっている自分がいる。まさに心弾むようなパワートレイン。こういう理屈抜きに気持ちいいと思えるクルマって最近ない。

けっこうなスピードで走らせていながら心拍数が上がらないのは、スピード感があまりないからだろう。風切り音も大きくないし、しっとりと柔らかいソファーのようなシートが心地良いし、アイポイントが高く視界も良い。フワフワとしたやさしい路面のタッチはこれまでも評価が高かったカングーの伝統である。コーナーではそれなりにロールしているのだが、乗員の頭が大きく振られる感じは全くないし、コーナーのエイペックスに向けてステアリングを切り込んでいったときの舵効きも良いので、ワインディングもお手の物といえる。

というより、個人的にはスポーツドライビングの楽しさって、これでいいんじゃないの? と思えるくらいである。使い切れないほどのパワーと固めたアシ、瞬時に切り替わる自動変速ギヤを備えたスポーツカーに慣れてしまい、スポーツドライビングの本質を見失いそうになっている筆者のようなクルマ好きがカングーのステアリングを握れば、いとも簡単に落とされてしまうはずである。

新しい1.2ℓカングーの出来がこんなにいいと、勢いよく走らせている限りは既存のテンロクモデルの必要性を感じない。だがひとつだけ1.2ℓ版にも弱点があった。1速のギヤ比がやけに高いのである。これは日本の住宅地にありがちな助走抜きにはじまる急坂を上る際のネックになる。実際に筆者の家に続く細い急坂を上るのに、途中2度もエンストしてしまった。もしかしたら、このM/Tのレシオは車重がカングーより250kgほど軽いルーテシア(日本仕様はDCTのみだが)などと同じなのかもしれない。もし筆者がカングーを購入するなら、奥さんが運転することまで考えて1.6ℓのA/Tモデルという平凡な選択を迫られるだろう。試乗してみて生活環境的に問題がないのであれば、最新の1.2ℓマニュアルのカングーは究極の1台としてオススメ出来る。

(文・吉田拓生 写真・田中秀宣)

ルノー・カングー・ゼン

価格 241.5万円
0-100km/h 11.7秒
最高速度 173km/h
公称燃費(EU混合) 16.4km/ℓ
CO₂排出量 140g/km
車両重量 1430kg
エンジン型式 直4DOHCターボ, 1197cc
エンジン配置 フロント横置き
駆動方式 前輪駆動
最高出力 115ps/4500rpm
最大最大トルク 19.4kg-m/2000rpm
馬力荷重比 80.4ps/t
比出力 96.1ps/ℓ
圧縮比 10.1:1
変速機 6段M/T
全長 4280mm
全幅 1830mm
全高 1810mm
ホイールベース 2700mm
燃料タンク容量 56ℓ
荷室容量 660-2600ℓ
サスペンション (前) マクファーソン・ストラット
(後)トレーリングアーム
ブレーキ (前)φ280mm Vディスク
(後)φ274mmディスク
タイヤ 195/65R15

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