内外装のクオリティの高さは、そのままドライブフィールにも通じている。DOHC可変バルタイのV6エンジンは、もはやドロドロッというエグゾーストノートなど奏でることはなく、頭の良い8速A/Tの管理下において2000rpmちょっとで静かにシフトアップを繰り返している。パワートレインも静かだが、車体のNVH処理も入念に行なわれているようで、タウンスピードで走る限り、タイヤのパターンノイズもほとんど感じられない。少しペースを上げて走ってみても、前後マルチリンク形式のサスペンションはしっとりと路面を捉え続けているし、電動油圧式となったパワステの感触も走行ペースに関わらず安定している。

「果たしてこれがクライスラーなのだろうか？」意地悪な見方かもしれないが、静まり返った上質な室内空間では妙な疑問ばかりが思い浮かんでくる。個人的には、昔ながらの大雑把な造りのアメ車に触れても、今回の新型300のような緻密なアメ車に乗っても、どこかしっくりと来ないのである。だが我々ジャーナリストのようにあらゆるクルマを並列に比べるのではなく、モダンなアメリカ車を求めている顧客にとって、新型の300は嬉しい驚きであるに違いない。何しろこれだけ威張りの効く立派な体躯と、最新装備を誇る輸入車のフルサイズセダンが398万円から購入できるのである。

振り返ってみれば、2004年に登場した初代300Cは、それ以前の丸身を帯びて平べったいクライスラーと一線を画す分厚いボディと、見た目とは裏腹とも思えるリーズナブルな価格設定によって一斉を風靡したモデルである。であるならばこの新型は、弱り切っている我が国の市場はさておき､世界的には大成功となるのではないだろうか？　と同時に、先代の300から7年が経って今回のフルモデルチェンジとなったわけだが、新型はちょうど7歳くらい大人びて見える。これなら初代300Cに満足していたオーナーの買い替え需要だって期待できるに違いない。クライスラー300はヒットモデルらしい手堅いモデルチェンジを敢行したというわけである。

(文・吉田拓生 　写真・佐藤靖彦)

クライスラー300C ラグジュアリー

価格	538.0万円
0→100km/h加速	7.7秒
最高速度	240km/h
燃費（欧州混合）	10.3km/ℓ
CO₂排出量	227g/km
車両重量	1900kg
エンジン形式	V6DOHC, 3604cc
エンジン配置	フロント縦置き
駆動方式	後輪駆動
最高出力	286ps/6350rpm
最大最大トルク	34.7kg-m/4650rpm
馬力荷重比	151ps/t
比出力	79ps/ℓ
圧縮比	10.2:1
変速機	8段A/T
全長	5070mm
全幅	1905mm
全高	1495mm
ホイールベース	3050mm
燃料タンク容量	72ℓ
荷室容量	462ℓ
サスペンション	（前）ウイッシュボーン
	（後）5リンク
ブレーキ	（前）φ345mm
	（後） φ320mm