ケータハム 620R vs 160

2台のクルマの比較記事を書く際に、どちらのクルマが優れるのかという結論はしばしば文章の最後まで明記されないことが多い。読者に記事を最後まで読んでほしいとか、筆者の主張をまずは聞き入れてほしいとか、そんな理由だ。

しかし今回の場合は特例的に、もしあなたの心の準備ができているのならば、先に結論を言うができる。ケータハム・セブン620Rの方がケータハム・セブン160よりもエキサイティングであることを。この結果を意外だと感じる人がいるだろうか? 160のエンジンはスズキの軽自動車から流用し、620Rのパワー・ウエイト・レシオはマクラーレンP1と等しい。さらに前者はルノー・スポール・クリオを峠道で抜き去るために全身全霊で運転しなければならないし、後者は0-100km/h加速にてブガッティ・ヴェイロンのドライバーをも不安にさせるほどの瞬発力を持つ。

われわれは滅多に同じメーカーかつ同系統のモデルに対して比較テストを行うことはないし、今回の場合620Rは160に比べて4倍のパワーを発揮し、3倍高価なのだ。どちらのクルマが優れるかを見極めるのに頭を悩ます必要がどこにあるのだろうか。

まず始めに160から乗ってみることにする。3気筒660ccのエンジンを組み合わせたこのクルマの車両価格は英国では約£15,000(222万円)から。それこそ数えきれないほどのバリエーションがあるので確実なことは言えないのだが、恐らく現在最新のセブンでありながら、超軽量かつ車軸懸架式サスペンションを採用したこのクルマは、過去30年間発売されたどのセブンよりも、コーリン・チャプマンが考え出したオリジナルのモデルに最も近いといえる。

かつて、車両を組み立てるのに£2,000(30万円)、ボディを塗装するのに£1,150(17万円)も払ってたことを考えればかなり安くなっているのだが、アピール・ポイントはそれだけではない。

160の最もユニークな点は、その扱い易さにある。峠道やサーキットでどれくらい速く走りきれるかに重点を置いていたかつてのケータハム・セブンに比べると、今までのどのモデルよりも運転し易いと言える。パワーが控えめになり、細身のタイヤに付随して生じるグリップの低下、さらに車軸懸架式サスペンションにより、サーキットや峠に行く前からドライバーを存分に楽しませてくれるのだ。

スズキ製の小さなエンジンの恩恵を受けて、さほど速くない合法的なスピードでも160はドリフトしてみせてくれる。さらに0.5トンの車重と極めて自然体なシャシーも相まって、警察に捕まることなく伝説のレーサーになった気分を味わうこともできる。それも毎日の日常的な運転で、だ。

あなたが考えるほど、このクルマに明確な欠点はない。パフォーマンスだって全くもってダメなわけではないし、明確なターボ・ラグも皆無に等しい。ただし5速マニュアル・ギアボックスのフィールはぎこちなく、パーフェクトな1速と同じくらい2速のギアレシオが低い(結果的に4速マニュアル・ギアボックスと言ってもいいくらいだ)。その一方2速から3速にジャンプしたあたりからは、小さなエンジンということを感じさせないくらいの快適さをもって運転することができる。しかしながら車軸懸架式のサスペンションは、細いタイヤと柔らかいサスペンションによる柔らかい乗り心地を台無しにしていることはくれぐれも心に留めておいていただきたい。

一方620Rの場合は、乗り心地に関して考える必要はない。というよりも、315psと30.3kgmを発揮するもっとも活発な2.0ℓエンジン・パワーを小さな小さなステアリングで操作するには、何速でコーナーを曲がるか意外に考え事をする余裕など全く残されていないのだ。

あなた自身をニヤリとさせ、助手席のパートナーを発狂させるのは、620Rのもつパワーだけでなく、そのレスポンスの鋭さゆえでもある。低いギアで高回転まで回した時のみならず、4速3000rpmでも手に負えないときがあり、結果的にあなた自身がどれほど野蛮なクルマを欲しているか、あるいはどれくらいそのパワーを抑え込むことが出来るかという無骨なクエスチョンを直接的に投げかけてくるのである。

620Rを容易く運転できかねる点においては、160とは全く対極に位置すると考えて良い。シャシーはシンプルな構成だし、160と比べてもさほど大きな違いがあるわけではない。ただし並外れたスピードと、スリック・タイヤが発揮する別世界のグリップは全ての事象において何十倍も速く感じさせるのし、これに慣れるには刹那的な試乗では不可能だということを断言できる。仮にたっぷりの時間と、耳を劈くほどのエグゾースト・ノートが迷惑にならないほどの十分なスペースあれば、何度かのスピンを経て上手に乗りこなせるようになるかもしれない。

悲しいニュースがもう一つ。先ほども記したが、620Rの排気音は本当にうるさい。仮にこのクルマを買った場合は、まだ夢の中の住人を起こさないために住宅地から離れたところまで押して行った後にエンジンを掛ける必要があるし、エンジンをかけた後も脳を麻痺させるような爆音に慣れるまでに数時間は掛かるだろう。あるいは、適切な場所まではトレーラーに載せていったほうが白い目で見られずに済むかもしれない。その点160の場合は、まだ日が昇る前にこっそりとベッドから滑りだしてドライブに行くことができるほど静かだ。

筆者は、お金で買うことのできるクルマの中で、これほどまでに狂乱した、そして没頭することのできる620Rのようなクルマが存在することを、ある意味誇らしく思う。そして同じ興奮を160では、控えめな価格と共に体現している。ただし、160をセブン・ファミリーの一員としてみたときに、やはり非力な印象を受けずにはいられないし、LSD(リミテッド・スリップ・デフ)や魅力的なホイールが欲しくなるのは事実だ。こういった意味でも最後の最後でやっぱり徹頭徹尾セブンでありつづける620Rに軍配があがるのだ。

その一方、小さく軽い、控え目なパワーをこよなく愛していたコーリン・チャプマンが存命ならば、彼は160を心から歓迎したに違いない。コーリン・チャプマンにとって十分に素晴らしいのであるならば、いち自動車好きとして、筆者は使命的に160を購入するに違いない。

(アンドリュー・フランケル)

ケータハム・セブン160

価格 £14,995(260万円)
最高速度 160km/h
0-100km/h加速 6.5秒
燃費 20.4km/ℓ
CO2排出量 114g/km
エンジン 直列3気筒660cc
最高出力 81ps/7000rpm
最大トルク 10.9kg-m/3400rpm
ギアボックス 5速マニュアル

ケータハム・セブン620R

価格 £49,995(868万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 2.8秒
燃費 NA
CO2排出量 232g/km
エンジン 直列4気筒1999ccスーパーチャージャー
最高出力 315ps/7700rpm
最大トルク 30.3kg-m/3500rpm
ギアボックス 6速シーケンシャル

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