BMW M3 vs アルピナD3

公開 : 2014.08.11 23:50  更新 : 2017.05.29 19:33

M3もD3も只者ではないことは素人目でみても明らかだ。普通の3シリーズよりも何かがオカシイ。それは分かるんだけど、M3とB3はどっちがどう凄いんだろう? そうお思いの読者は決して少なくないはずだ。

したがってわれわれは、シンプルな疑問を投げかけることにした。

”最も速いBMW3シリーズは、ガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンのどちらがいいのだろうか”。たしかに疑問こそシンプルだけれど、回答は一筋縄ではいかないかもしれない。

昔なら ”そんなのガソリン・エンジンの方が良いにキマってる” となったかもしれないが、アルピナD3ビターボのレビュー記事を見てほしい。かのクルマのパフォーマンスを見れば回答に窮するのも無理はない。仮に最新のM3を対戦相手に仕立てたとしても、である。

2台の究極の3シリーズたちは、ホワイトボディの状態では基本的にまったく同じだ。それだけではなく後輪駆動のシャシーやサスペンション・レイアウト、キャビンや荷室のディメンションに至るまで、そのほとんどが共用パーツを使用する。

しかしながらそれらに施される味付けは、アルピナとM GmbHが目指すものが違うことが明確に映しだされている。その結果、最終的なキャラクターは驚くほどに全くの別モノなのだ。

M3を突き動かすツインターボ加給の3.0ℓ直列6気筒エンジンは、燃料をガソリンとし、最高出力は431ps、1800rpmから5500rpmの間に最大トルクである56.1kg-mを発揮する。ちなみに定められるレヴ・リミットは7500rpmだ。

対するD3、ツインターボの直6エンジンはモデルネームの ’D’ が示すとおりディーゼルだ。何より大事なのは、回転が5000rpmで頭打ちとなり、最高出力もM3より小さな350psとなっている点である。M3に勝るのは、その最大トルクで、こちらはたったの1500rpmで強大な71.4kg-mを叩き出す。

テストに借りだしたM3が1635kgということを考えれば、D3の1660kgという乾燥重量はわずかに重いことになるが、それでも上記のトルクを考えればスポーツカーと呼ぶに差支えは無いのではないだろうか。

またM3が7段デュアル・クラッチATをオプションで選べるのに対し、D3は標準で1段多い、8段ATとなるのだがD3のほうが£9,225(137万円)安い。

さらに値段よりも大きな違いが見て取れるのは、シャシー、ステアリング、サスペンションのシステムだ。サスペンションは両方ともに電子的に制御され、道路の状況に合わせてスポーティーな方向あるいはコンフォートよりにセッティングが切り替えられるのだが、なかでもM3の方が終始スポーティーな味付けとなっていた。

D3のステアリングの方がM3のそれに比べて厚みがあり、径も大きいく、重さはモードによって3種類に分けられる。しかしどのモードでも、M3の方が常に緊迫感があり、感じやすく、熱気がある。D3のほうがおっとりと落ち着いているのを考えると、M3はやや神経質な印象さえあった。

外観もルックスもほとんど同じではあるが、うちに秘めているキャラクターは正反対だと言っていい。

M3は繋がれた手綱からいち早く自由になろうとする野生の犬のような振る舞いをするのに対して、D3はその人生のほとんどを溢れんばかりの愛によって育てられた年配のハウンドのようである。

ギアをDに入れてフライ・バイ・ワイヤ方式のアクセル・ペダルを踏み込めば、M3の方がどの操作にも重みがあるが、両者とも高レベルのテイク・オフを行う点は瓜二つだ。ただし感覚的にはD3の方が、穏やかな発進を行い、M3の方がジェット機の離陸のような力強さがある。

両者それぞれ、非常に素晴らしい加速を見せてくれるのだが、D3の方がほとんど完璧なまでにタイヤノイズや6気筒エンジンの音が遮られているため、実際の速度よりももっとゆっくりに感じられた。

ジェット機のような加速に対して、D3は来るべき風にふわりと乗っかり地平線まで気ままに向かってゆくグライダーのような感じだ。とりわけピーク・トルクを発揮する4速時の2000-4000rpmあたりの加速は、獰猛さとは無縁の超現実的なのである。

だからといって退屈だと感じることは全くない。筆者自身、ストレート・ラインを走り終えた直後には、もう一度スタート・ラインにもどってあの滑らかな加速を味わいたいと思ったほどだ。

M3の方が激しく、うるさく、暴れまわる。単なるスタンディング・スタートでも、トラクション・コントロールを開放させれば、一筋縄ではいかないのである。

ガス・ペダルを踏んだ瞬間から怒涛のホイール・スピンが続く。M3の所作の全ては、荒々しく激しいのだ。言葉通り本当に激しい。

スタート・ラインを超えてからのM3の回転上昇のマナーは明らかにD3のそれよりも素早くドラマティックだ。シフト・アップをすれば激しさは更に増し、そこからもキレのある加速が続く。シフト・チェンジしたこともドライバーまで明確に伝わってくる。

最初はD3の方がリードするのだが、最終的にはM3が追い越すかたちとなり、結果的に0-100km/hタイムはD3の4.6秒に対し、4.1秒。また160km/hへの到達タイムもM3が9.0秒、D3は10.0秒と、M3が速い結果となった。

160km/hへの達し方、感じ方、音や反応は両者は全く異なる。だけれども、実際のパフォーマンスは驚くほどに似ている点は実に面白い。それも直線道路だけのことではなく、コーナリングでもだ。

なのに空気感がまるで異なる。なんとも不思議な話である。もう一度いうけれど、D3の方がとにかく柔らかく、スムースでリラックスしているように感じるのだ。可変レシオのステアリングも切り心地、感覚ともにM3よりソフトであるために、結果としてノーズを微調整するのがむつかしいほどだ。

しかしD3をさらにプッシュしていけばいくほど、穏やかな雰囲気は豹変してゆく。そしてモードをスポーツ・プラスにセットした暁には、もうあの ’甘美な’ 感覚は過去のものになるのだ。ダンパーはグッと引き締まり、ステアリングは重くなり、反応も鋭利になる。スロットルのマッピングも変化し、ギア・チェンジは素早く、もっと滑らかになる。

この時だけはアルピナの荘厳な味はなくなり、サスペンションのストロークも制限されたような感覚を覚える。

とは言うものの、最も積極的なセッティングにしているにも関わらず乗り心地が一貫して洗練されていて、そのうえリラックスしている点はさすがはアルピナだ。4枚のドアと、適切なサイズのトランクをもったスポーツカーというよりも、きちんと速く走ることのできるリムジンと表現するほうが適切だろう。これこそM3と立場を異にするポイントだ。

M3の方が運転していて刺激的なのは言うまでもない。ステアリングに始まり、アクセル/ブレーキ・ペダル、パドルなど、どの入力システムからの反応も素早いのだ。

コーナーへの切り込み方、コーナリングの粘り、どれをとってもD3を凌駕するレベルにある。どの動きもD3より誇張されていると言ってもいいだろう。

第一にノイズの処理。あるいは故意的なものかもしれないけれど、アクセルを踏めば踏むほどキャビンにはノイズが容赦なく入り込んでくる。

第二に乗り心地。こればかりは英国の路面ではかなり際どい。とくにD3を目の前にすると、いささか暴れ過ぎやしないかと思うほどである。

第三にトラクション・コントロールを解除した際のデフの振る舞い。かなりピリピリとしている。ミドル・レンジのトルク供給を考慮に入れても、荒々しさに面食らう時がある。D3についていたフレンドリーなLSDのほうが、簡単に限界点まで持って行くことができると感じた。

第四に車両価格。もちろんM3の方が、値段が高い分ギミックはD3のそれよりも多い。’多い’ ことは認めるのだが、’約£10,000(150万円)の差を埋め合わせられているか’ と問われれば、首を縦に振ることはできない。’納得できるか’ と問われたとしても、同様の答えになるだろう。こればかりは大きな問題である。

それにこのご時世、クルマの性能だけでどちらが優れているかを決めることができないのも、ご存知のとおりだ。M3はD3に比べると環境によろしくはないし、航続距離も劣る。

額面上の複合サイクル燃費はM3が12.0km/ℓが、D3が18.9km/ℓとなっている。しかし実際のところD3は、モータウェイの巡航速度で15km/ℓ前後、更に速いペースで山道を攻めれば12.0km/ℓは確実に下回る。M3の場合は高速巡航時で、いい時で10.6km/ℓ、山道では7.08km/ℓ程度になる。そこから暗算をすれば、後続可能距離はせいぜい400km程度といったところだろう。

そろそろ結論を出してもいい頃合いだ。ドライ路面、空いた山道など様々なシチュエーションをテストした結果、D3には身の毛がよだつほどのスリルはない。同じ資金を投じるならば、もっともっとドキドキすることのできるクルマは他にもある。

しかしD3は、長く付き合えば付き合うほど味わいが増す。デイリー・ユースにおいて、D3ほど洗練されたクルマを見つけることは難しい。燃費や車両価格、航続可能距離、どれをとってもM3より優れている。そのうえ中間加速のレベルの高さにとろけてしまいそうになったとしてもおかしくはない。

M3も、名誉あるバッヂを貼り付けているだけに良い仕事をしている。しかしながらD3に見られる ’特異な’ 輝きがあるかといえば、そうではない。M3は運動神経も高いし、頭もいい。だけれどもD3のような、どことなく漂う、惹き込まれてしまうような不思議な空気感がないのだ。

これこそが、この項においてアルピナD3が優勢となる唯一の決定打になったのであった。

(スティーブ・サトクリフ)

BMW M3

価格 £56,175(963万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.1秒
燃費 12.0km/ℓ
CO2排出量 194g/km
乾燥重量 1537kg
エンジン 直列6気筒2979ccターボ
最高出力 430ps/5500-7300rpm
最大トルク 56.0kg-m/1850-5500rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

アルピナD3ビターボ

価格 £46,950(803万円)
最高速度 278km/h
0-100km/h加速 4.6秒
燃費 18.9km/ℓ
CO2排出量 139g/km
乾燥重量 1660kg
エンジン 直列6気筒2993ccディーゼル・ツインターボ
最高出力 350ps/4000rpm
最大トルク 71.4kg-m/1500-3000rpm
ギアボックス 8速オートマティック

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