最後の『創業家アルピナ』、D3Sはワインのように熟成【日本版編集長コラム#88】

公開 : 2026.06.28 12:05

AUTOCAR JAPAN編集長ヒライによる、『日本版編集長コラム』です。最近乗ったクルマの話、取材を通じて思ったことなどを、わりとストレートに語ります。第88回は『最後の創業家アルピナ』となる、『D3S』を取材しました。

自動車史における分岐点

この仕事をしていると、自動車の歴史における分岐点に出会うことがある。昨年から今年にかけての『アルピナ』がまさにそうで、リアルタイムで経過を追うことができたのは、自動車メディアの編集者冥利に尽きると思っている。

ご存知のように、アルピナの商標は創業ボーフェンジーペン家からBMWに譲渡され、今年1月1日から新たに『BMWアルピナ』のブランド展開が始まった。

取材車はニコル・オートモビルズからお借りした、『BMWアルピナD3S』。
取材車はニコル・オートモビルズからお借りした、『BMWアルピナD3S』。    平井大介

日本で長年アルピナの日本総代理店を務めてきた『ニコル・オートモビルズ』(以下ニコル)もアフターサービスは引き続き行うものの、この1月からは在庫車、中古車を中心に扱うことになった。

そう『在庫車』ということで、本国へのオーダー自体は昨年で終了したが、ニコルは仕様を決め打ちして2026年生産分を確保。ひとりでも多くのファンへ『最後の創業家アルピナ』を届けるべく、今年も販売を続けている。

実は今回紹介する『BMWアルピナD3S』もまさに『まだ買える』状態でお借りしたのだが、取材後に完売。6月22日時点で、残りは『B4GTグランクーペ』の左ハンドル6台のみとなっている。在庫状況はホームページで確認できるので、気になる方はそちらでご確認頂きたい。

D3Sはディーゼルの3L直列6気筒ツインターボを搭載し、最高出力365ps、最大トルク74.5kg-mのスペック。アルピナ・スイッチトロニックと呼ばれる8速ATを組み合わせ、駆動方式は4WDだ。

ボディサイズは、全長4725mm、全幅1825mm、全高1440mm、ホイールベース2850mmで、車両重量は1910kg。価格は1370万円、オプションを追加した取材車は1614万8000円であった。

アルピナはなぜ愛されるのか

アルピナに関しては、2020年7月に発売されたワンメイクムック『スクランブル・アーカイブ・アルピナ』(ネコ・パブリッシング刊)の編集を前職時代に担当した時、初めて深い関わりを持つようになった。そこで数多くの取材を行うことで、アルピナがなぜ愛されるのか、ようやく肌感覚として理解することができたのだ。

アルピナで好きなエピソードがふたつある。

アルピナの目印とも言える、サイドの『デコライン』。
アルピナの目印とも言える、サイドの『デコライン』。    平井大介

まず、スペックを記す際に『巡行最高速度』と書くことだ。最高速は到達点ではなく、あくまで最大限のパフォーマンスを発揮し続ける『約束の値』。もちろんその数字を公道で体験することはないが、高速巡行がとにかく得意なアルピナの特性を理解していれば、なるほどと納得できる話だ。

もうひとつは知人から聞いた、アルピナの目印とも言えるサイドの『デコライン』を敢えて選ばずに乗っている方がいるという話だ。デコラインがないと、クルマに詳しい方でないとBMWであるかアルピナであるか見分けるのは難しい。

しかしそのオーナー氏は、職業的に高価なクルマに乗っていることを周囲にアピールしたくないそうで、「いえいえ、これは普通のBMW 3シリーズです」と控えめに答えながら、実はそのパフォーマンスを密かに楽しんでいるという。

このエピソードも一例となるように、個人的にアルピナは『違いのわかる人』が楽しんでいるイメージを持っている。ワインで例えるならば、見た目は似ていても、どこでも購入できる量産品とワイナリーが熟成させた年代物の味が異なるように、その本質を嗜む『アルピナ趣味』が存在するのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

日本版編集長コラムの連載

連載をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

Google検索で『AUTOCAR JAPAN』の記事を見つけやすくする方法