アバルト695ビポスト

公開 : 2014.12.06 23:50　　更新 : 2017.05.29 18:23

スポーツ・モード時の電制メカニカル・ステアリングの重みとダイレクトネスにはすんなりと馴染めるが、転舵した状態からそっと手を離した際の中立位置への戻りかたはやや作為的に感じなくもない。またコーナーの出口で意図的にガスペダルを踏み込むと、FFゆえの大いなるトルク・ステアに悩まされることも時にあった。

少なくともウェット・コンディションにおける限界点ちかくではスロットルによる入力に対し、非常に繊細に反応する。あまりに敏感すぎるためドライバーの腕が直接的に試されるのも事実。シャシーの実力を最大限に引き出すためにゆっくりとアクセルを踏みながらコーナーを脱出するなどの対策をとる必要がある。

また、こういった類のクルマに快適性を求めることは正しくないが、やはりアシの硬さは覚悟しておいたほうがいい。大きな窪みが目立つような一般道の路面をそれなりの速度で攻める場合、時に車体が跳ねるため、その間一瞬ではあるがコントロール不可になることも多い。神経を研ぎ澄ませて走るクルマ、という点においては公道もサーキットでも一貫したキャラクターを持ち合わせているといえる。

■「買い」か?

アバルトのブランド・マネージャーであるマルコ・マグナニーニ氏はしきりと ”狂気の沙汰” という言葉を使ってこのクルマのパフォーマンスの高さを表現していた。£32,990(625万円)という価格もまた狂気の沙汰という表現がぴったりなのだけれど、さらにここからシーケンシャルMTを選べば£8,500(161万円)高価になり、プレクシグラス製ウインドウやカーボン製ダッシュボード、アルミ製ボンネットを選んでいけば£50,000(947万円)に及ぶ勢いだ。あのフィアット500が、である。

しかしアバルトのセールス状況を解析すると、上位モデルに乗っているオーナーは、さらにグレードアップしたモデルが出ると次々と乗り換えているという傾向があるようだ。したがって今回の最新兵器も、お金に困っていないオーナーにとっては恰好の投資対象になるというわけだ。

日常的な運転では、硬い乗り心地以外にも制限される要因は大いにあるが、サーキットカーとしての購入ならばおすすめできるポイントは十分にある。ただし500万円台後半のサーキット専用玩具を買うとなれば、われわれならばケータハムの方を取る。

(グレッグ・ケーブル)