「1万1776cc」V8のレーサー ヴォグゾール・バイパー・エアロ 100年前の大排気量モンスター(1)

公開 : 2024.09.01 17:45

巨大エンジンを積んだ100年前のスポーツカー バイパー・エアロは1万1776cc KRIT 100HPは9299cc SCAT タイプCは9230cc 興奮を追求した産業遺産的モンスターを、英編集部が振り返る

地上でのスリルとスピードを追求した100年前

1万1776ccもあるイスパノ・スイザ社製エンジンを載せた、1913年式ヴォグゾールバイパー・エアロの運転席へ座る。過去に戦前のヴォグゾールを運転した経験があれば大丈夫だと、オーナーのトニー・リース氏が助手席で説明する。

確かに、筆者は100年ものの30-98を運転したことはある。それでも、辛口な中華料理を知る目的で、馴染みの町中華を食べたようなもの。本場の四川料理と違うことは、否定できない。排気量も馬力もまるで違う。

左からヴォグゾール・バイパー・エアロと、KRIT 100HPエアロ・レーサー、SCATタイプC レーサー
左からヴォグゾール・バイパー・エアロと、KRIT 100HPエアロ・レーサー、SCATタイプC レーサー

最大トルクは99.3kg-mあるから、発進直後にダブルクラッチでトップギアへ入れれば、160km/h以上まで加速できる態勢は整う。現代のハイパーカーとは違う意味で、ちょっと狂っている。

ここへ、今回は1世紀前の豪快なスポーツカーを2台加えた。一方は、戦闘機から引きずり降ろされた9.2Lエンジンを積んだ、KRIT 100HPエアロ。他方は、9.3L 4気筒エンジンを載せたSCAT タイプC レーサー。いずれも、1911年に製造されている。

グッドウッド・メンバーズミーティングのイベント、SFエッジ・トロフィーで、3台は壮観な走行シーンを披露してくれた。驚くほど高い位置へ座ったドライバーが、巨大なステアリングホイールを抱えて運転する姿は、多くの人の記憶へ刻まれたはずだ。

第二次大戦前にも、地上でのスリルとスピードが追求されたことの、生き証人といえる。20世紀初頭に自動車技術は急成長を遂げ、クルマの雛形が完成。必然的に、モータースポーツという新たなビジネスも生み出された。

不要になった戦闘機のエンジンを搭載

グレートブリテン島では、ブルックランズ・サーキットがその拠点に。欧州大陸では、イタリアのタルガ・フローリオなど公道イベントが開催された。巨大なエンジンを搭載したモンスターマシンが、速さを競い合った。

肉薄した空中戦を無傷で生還したパイロットは、地上でのドッグファイトにも夢中になった。他では味わえない、アドレナリンの大量分泌を求めて。

ヴォグゾール・バイパー・エアロ(1913年)
ヴォグゾール・バイパー・エアロ(1913年)

英国の王立陸軍航空隊は、不要になった戦闘機のエンジンを整備し、1基50ポンドというお手頃価格で販売。強固なシャシーへ搭載することで、ベントレーやサンビームの真新しいスポーツカーより高性能な1台を、安価に作ることも可能だった。

バイパー・エアロは、こうして誕生したのだろう。1913年式のヴォグゾール Cタイプ・シャシーがベースになっており、本来はDタイプと呼ばれる4.0L 4気筒エンジンが載っていたはず。最高出力は87psで、当時の基準では充分にパワフルといえた。

置換されたエンジンの排気量は、3倍近い。ダイノテストでは300馬力近くを発揮するという、イスパノ・スイザ社製のV型8気筒、HS8Bユニットがフロントに鎮座している。

もとは、ロイヤル・エアクラフト・ファクトリー社が生産していたSE5a複葉戦闘機の動力源で、設計はマーク・バーキグト氏。プロペラを直接回転させる、先進的なユニットだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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