”それはそれでいいのじゃないか” と笑顔でいられるのは、ケイマンのシャープネスゆえ。サーキットというよりも、ストリートよりの仕立てではあるけれど、この鋭さをひとたび味わってしまえば、一瞬にしてケイマンGTSの虜になってしまう。

リアが滑りはじめてからの挙動はかなりダイナミックなもの。ただしまったく手に負えなくなるというようなことはなく、大幅に向きを変えてからも扱いやすいのは、911を通して慎重に研究開発をすすめてきたポルシェの功績といっていい。

運転するうえで、魂がふつふつと煮えたぎるような興奮を味わうには、結局のところ自分の思ったようにクルマを動かせるということが大前提なのだと感じた次第である。

ただ、より細やかなところまで視点を落としていけば、精緻感は、ほんのわずかではあるがGTSよりもGT3のほうが優っている。5°ほどの傾斜のある濡れた路面でも、グリップやステアリング・レスポンスにまったく不満がなかったのはGT3のほうであった。

もちろんGT3に乗るからには、低速域でのサスペンションの硬さを感じることは避けられない。けれども、他の硬派なスポーツカーほど不快になることはなく、むしろうまく入力を丸め込んでいる方である。GTSの可変ダンパーの方がサスペンション・トラベルが大きいぶん衝撃を和らげることに長けているけれど、GT3もGTSにちかい快適性を維持していることは覚えておいてほしい。

ハンドリングに関しては、911GTSとケイマンGTSが非常にちかい関係性をもつ。ただし911GTSは、ケイマンの直感的なレスポンスには一歩及んでいない。ケイマンのGTSのそれにぐっと近づくのは、GT3の方で、より密にコミュニケーションをとれるのはGT3だ。

ただ、一糸乱れぬ正確性に関しては3台中ケイマンがトップ。2台の911はわずかに、こちらの思いを上手く路面に伝えてくれないことがあった。

荷重移動はポルシェと切っても切れない関係ではあるけれど、やはりこちらは911勢が優勢。なかでもGT3は、荷重移動を自分の思うままに行うことができた。おかげで、かなりの距離を走り続けても飽きることなくコーナーを攻め続けられた。

ハンドリングにおいてケイマンが輝いたのは、速度域によらないマナーの普遍性だ。おかげで信頼関係を見出すのにほとんど時間を要さなかったし、なにより自分が思ったラインからほぼズレることがなかったのも楽しみを増す要因となった。

あまり触れられてこなかった911GTSはどうか？ たしかに素晴らしいクルマではあるけれど、ケイマンや911GT3があまりに目立った成績を残したがゆえに、あまり目立てなかっただけだ。GT3には遠く及ばなかったけれど、GTSの成し遂げた洗練性と楽しさの両立は一等地を抜いている。

また、’GTS’ というエンブレムが、単なるマーケティング目的ではなく、カレラSとは一線を画するアイデンティティを携えていることも今回の比較試乗で明らかになった。

それでは、今後も語り継がれていく存在と成り得るかどうか？ これは残念ながらノー。ただしスポーツカー・カテゴリーの派生モデルとしては好例であるし、愛されるべく十分な理由は揃っている。

(マット・ソーンダース)

ポルシェ911GT3

価格	£100,540(1,821万円)
最高速度	315km/h
0-100km/h加速	3.5秒
燃費	8.1km/ℓ
CO2排出量	289g/km
乾燥重量	1505kkg
エンジン	水平対向6気筒3799cc
最高出力	475ps/8250rpm
最大トルク	44.9kg-m/6250rpm
ギアボックス	7速デュアル・クラッチ

ポルシェ・ケイマンGTS

価格	£55,397(1,003万円)
最高速度	285km/h
0-100km/h加速	4.6秒
燃費	11.1km/ℓ
CO2排出量	211g/km
乾燥重量	1420kg
エンジン	水平対向6気筒3436cc
最高出力	340ps/7400rpm
最大トルク	38.7kg-m/4750-5800rpm
ギアボックス	6速マニュアル

ポルシェ911カレラGTS

価格	£91,098(1,650万円)
最高速度	306km/h
0-100km/h加速	4.4秒
燃費	10.5km/ℓ
CO2排出量	223g/km
乾燥重量	1500kg
エンジン	水平対向6気筒3800cc
最高出力	430ps/7500rpm
最大トルク	44.9kg-m/5750rpm
ギアボックス	7速マニュアル