【現役デザイナーの眼:マツダデザイン】造形の追求は世界トップクラス!『魂動デザイン』の肝は『面』にあり

公開 : 2025.03.13 19:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が、マツダデザインの魅力を具体的に読み解きます。

マツダデザインが『造形』で世界トップだと思う理由

2016年ロサンゼルス・モーターショーでのこと、当時私は携わったクルマの発表があったので現地にいたのですが、マツダのブースでは現行型CX-5が発表されました。デザインそのものの魅力もさることながら、黒を基調としたブースに真っ赤なCX-5が置かれていたのがとても印象的でした。

さらに翌年の2017年東京モーターショーでは『ビジョン・クーペ』など魅力的なコンセプトカー2台が発表されていましたが、この時も黒基調のブースで高級感溢れるものだったと記憶しています。

2017年東京モーターショーに出品されたコンセプトカー『ビジョン・クーペ』。このようにボディサイドのリフレクションの動きが特徴で、以後のマツダ車に踏襲された。
2017年東京モーターショーに出品されたコンセプトカー『ビジョン・クーペ』。このようにボディサイドのリフレクションの動きが特徴で、以後のマツダ車に踏襲された。
    マツダ

この黒で高級感あるブースはマツダのブランド戦略の一環ですが、その戦略の中心となるのが『魂動デザイン』です。『生命感を形にする』とマツダのホームページにも記載されていますが、まさに動き出しそうなエモーショナルなデザインが特徴です。

具体的に見ていきましょう。まず、スポーティなプロポーションは日本の他メーカーの追従を許さず、欧州プレミアムブランドと同等以上のものです。その上で特筆すべきことは、面の『リフレクション(反射・映り込み)の流れ』でしょう。これは、一定断面では効果が得られません。大胆な立体構成とともに、面の角度を変化させたりすることで、リフレクションに『動き』が得られます。

カーデザインにおいてデザイナーが熟考するもののひとつに『ドア断面』があります。これは一般の方でもフロントドアを開けた際に確認できます。ドア断面次第で、デザインのボリューム感や強さなどが変わるものですが、通常のクルマであればその断面でドア一般面を作るので、一定断面に近い仕上がりになります。

しかし、マツダのデザインには一定断面がありません。どこの断面を切っても常に変化をしています。このような作りは、他メーカーではトヨタの一部車種くらいで、ヨーロッパのメーカーでもあまりやりません。先進性と、それに伴うリフレクションの操り方など『造形の追求』という意味で、マツダが世界でもトップなのではないでしょうか。

魂動デザインの頂点だと感じるマツダ3ファストバック

そんなマツダデザインの中でも究極だと思っているのが『マツダ3ファストバック』です。

これには驚きました。スポーティなプロポーションはもちろん、前述したような大胆な立体構成でリフレクションのダイナミックな流れを表現しているのですが、さらにこのクルマは、メインのキャラクターラインを無くしています。

マツダ3ファストバックのサイドビュー。メインのキャラクターラインが無いことが分かる。また連続したCピラーからリアフェンダー周りに注目。
マツダ3ファストバックのサイドビュー。メインのキャラクターラインが無いことが分かる。また連続したCピラーからリアフェンダー周りに注目。    マツダ

カーデザインは通常、前後に伸びる線を作り、それにより勢いや伸びやかさを表現するものですが、このクルマはキャラクターラインの代わりに面のピークを作り、勢いをリフレクションだけで表現しているんです。

リフレクションの変化というのはスケッチで表現するのは簡単ですが、それを造形するのは相当のスキルが必要になります。つまりマツダデザインの魅力は、モデラーの力が大きく関わっているんですね。

さらにこのクルマのデザインで一番のハイライトは、Cピラーとリアフェンダーの関係です。

ここは通常、多くのクルマではショルダーラインが走るので、Cピラー、ショルダー、リアフェンダーと小刻みになるのですが、このクルマはツルッと連続しています。厳密にはCピラーとリアフェンダーの面は分かれているのですが、まるで繋がっているかのような表現ですよね。

私は、このようなデザインが出来ることに驚きました。他メーカーならスケッチの段階でこのようなデザインを描いたとすると「ウソを描くな」と上司に怒られるかもしれません。それくらい難易度が高いと感じます。

余談ですが、ある店舗の駐車場で、このマツダ3ファストバックの隣りにアストン マーティンヴァンテージが止まっていたので見比べましたが、大げさにいうと存在感に遜色なかったです。このようなデザインのクルマが街のレンタカー屋さんで普通に借りられるのですから、我々は恵まれているのではないでしょうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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