【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#6 大貴族号は没落貴族!

公開 : 2025.04.25 12:05  更新 : 2025.05.01 10:38

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第6回は『大貴族号は没落貴族』を語ります。

「ようこそメカトリエへ」

我が大貴族号こと先代マセラティクアトロポルテが、『マイクロ・デポ』のつくばの拠点に到着して約1週間。初対面を果たすべく、私はちょいワル特急こと(愛車の)プジョー508を北東へと走らせた。

常磐自動車道の谷田部インターを降りてしばらく行くと、そこは筑波山を望む大平原。かつて、平将門などの坂東武者たちが、武勇を競った蛮夷の地である。

こちらはもちろん新車時のマセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT。貴族感が漂う。
こちらはもちろん新車時のマセラティ・クアトロポルテ・スポーツGT。貴族感が漂う。    マセラティ

グーグルマップの指示に従って到着したのは、だだっ広い資材置場&倉庫? みたいな所で、そこには、カバーをかけられた無数のクルマが並んでいた。

(げえっ!! これ全部マセラティなのかよ!)

カバーがかかっているのでわからないが、たぶんそうだろう。これほどの数のマセラティを買い集めるなんて変態だ! クサヤの干物が大集合! とでも言おうか。

「ようこそメカトリエへ」

マイクロ・デポのタコちゃん(岡本和久代表)が、小屋から出てきて迎えてくれた。メカのアトリエだからメカトリエ。メカ砦じゃないのね。

オレ「いやー、とんでもなくすごいところですね」

タコちゃん「内陸の平野なので、寒暖の差が激しくて、風がメチャメチャ強いんですウヒャヒャヒャヒャ!」

さすが蛮夷の地だ。

どこか微妙に落ちぶれ感

タコちゃんの背後には、1台だけカバーがかかってない、白い先代クアトロポルテがたたずんでいた。

オレ「これですね!」

マイクロ・デポの岡本和久代表と、筆者の大貴族号こと先代クアトロポルテ。
マイクロ・デポの岡本和久代表と、筆者の大貴族号こと先代クアトロポルテ。    清水草一

タコちゃん「これです」

パッと見はキレイだ。でも、どこか微妙に落ちぶれ感……がある気がしないでもない。

運転席のドアを開けて、その思いは決定的になった。ボルドーの本革シートがグニャグニャと波打ち、ドドメ色に変色していたのである。

ウィキペディアによると、ドドメ色とは、桑の実や青ざめた唇の色、あるいは打撲による青アザの表現だそうだ。そうだったのか! 私は〇〇の〇〇〇(←編集者の判断により伏せ字)の色だと思っていた。昭和でスイマセン。

あと、運転席ドアの内張りが、下品にテカテカ光っている。ついでに、レモン型のアナログ時計の針に、緑青(緑色の錆)が生えている。

直観として、(これは大貴族じゃない。没落貴族だ)と思った。

オレ「このクルマ、ガレージ保管……とかじゃないですかね?」

タコちゃん「じゃないですね。乗りっぱなしにされてたと思います。ドアモールが白サビだらけでしょ」

よく見たらそうだった。そうか、それで落ちぶれ感があったのか! と言ってもまぁ、私も露天の駐車場で野ざらしにするつもりだけど。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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