【アルピナ・マジックの正体見たり】核心は乗り心地にあらず! BMWへの商標移行前に知っておきたいこと

公開 : 2025.08.14 11:45

今年いっぱいでアルピナの商標は、ドイツ・ブッフローエの地で作り続けてきたボーフェンジーペン家からBMWへと移ります。長年取材してきた吉田拓生が、『アルピナ・マジック』と呼ばれてきた乗り心地を中心に『アルピナ観』を語ります。

ブッフローエが目指していたもの

本稿は今年5月29日に公開された『BMW M観』に対するアルピナ版のようなもの。もしまだ目にしていないという方は、先にMの方を読んでいただけるとより良く理解してもらえると思う(編集部注:下段の記事リンクよりご覧下さい)。

筆者は1990年代半ば以降ほとんどの新車のアルピナと、そのクラシックモデルを試乗した経験があり、『自分なりのアルピナ観を持っている』と思っていた。その考えに変化が生じたのは、昨年ブッフローエの最終カタログモデルである『BMWアルピナB3GT』と『B4GT』の国際試乗会でドイツに赴き、作り手の生の声を聞けたことが大きい。

ブッフローエの最終カタログモデル『BMWアルピナB3GT』(右)と『B4GT』。
ブッフローエの最終カタログモデル『BMWアルピナB3GT』(右)と『B4GT』。    佐藤亮太

BMW Mについて筆者は、『原初のM1を唯一の例外として、全てのモデルがBMWの生産車に倣ったハイパフォーマンスモデルであることがわかる。1本筋が通った精神性よりも、流行を取り入れることに重きを置くブランド』と定義している。これに対し『ブッフローエのアルピナは、自らが思い描いた枠に落とし込む職人のようなもの』と記してきた。

では彼らが思い描いた枠とは何か? これまでの筆者の考えでは『ひとつのモデルに1種類の純正装着タイヤを合わせ込み、超高速走行時のスタビリティと低速時の乗り心地の良さを両立させたもの』となる。

ただその一方で、昨今はボディ剛性、というか減衰力の向上やエアサスなどの進化によってライバルの性能も上がっており、『低速時の乗り心地』という部分だけに注目してみると、アルピナのアドバンテージはそこまで大きくないという思いもあった。

低速は問題がなければそれでよし

筆者が初めてアルピナのステアリングを握り、衝撃を受けたのは1996年のこと。デビューしたばかりの『B8 4.6』だった。

そのリアタイヤは265/35ZR17で、現在では驚くほどの扁平ではない。だが当時としては十分に攻めた設定であり、このタイヤでまろやかな乗り心地を実現できる足まわりやシャシーも皆無といってよかった。

扁平タイヤに対する乗り心地の良さは、長年『アルピナ・マジック』と呼ばれてきた。
扁平タイヤに対する乗り心地の良さは、長年『アルピナ・マジック』と呼ばれてきた。    佐藤亮太

登録台数が一気に増えたこともあり、E36時代のモデルがよく言われる『アルピナ・マジック』という表現を広めたのではないかと思っている。

それと比べれば、現在のアルピナの乗り心地は突出したものとは言えないのでは? そんな筆者の質問に対し、アルピナのエンジニアは意外な答えを返してきた。

「でも今回のニューモデルの乗り心地に何か問題はなかったでしょう? それに我々が作り込んでいるのは低速の乗り心地ではなく、あくまで高速で走らせたときの快適性やスタビリティなので……」

その答えに、アルピナを担当するピレリのエンジニアも同意する。

「乗り心地が悪かったら問題ですが、特にその部分に関して我々がタイヤの構造で対処しているということはありません。ただアルピナが求めるドライバビリティに合わせ、トレッドの中心付近を少し軟らかめに作っているということはあります」

日本でよく言われるアルピナ・マジックの核心=扁平タイヤに対する乗り心地の良さは、超高速走行時(B3GTの最高巡航速度は308km/h!)のスタビリティや快適性を追求した副産物のようなもの。彼らの口ぶりからは、そんなニュアンスが感じ取れたのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 撮影

    佐藤亮太

    Ryota Sato

    1980年生まれ。出版社・制作会社で編集経験を積んだのち、クルマ撮影の楽しさに魅了され独学で撮影技術を習得。2015年に独立し、ロケやスタジオ、レース等ジャンルを問わない撮影を信条とする。現在はスーパーカーブランドをはじめとする自動車メーカーのオフィシャル撮影や、広告・web・雑誌の表紙を飾る写真など、様々な媒体向けに撮影。ライフワークとしてハッセルブラッドを使い、生涯のテーマとしてクラシックカーを撮影し続けている。佐藤亮太公式HPhttps://photoroom-sakkas.jp/ 日本写真家協会(JPS)会員
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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