【渡辺敏史が振り返る】レクサスのために開発された自然吸気5L V8!名機『2UR-GSE』を終焉前に味わう

公開 : 2025.08.28 11:45

他があまりに速くなりすぎた

IS Fへの搭載から18年の間に、2UR-GSEは更なる高回転化と共に、54〜58psの出力向上を果たしている。その間、ターボ化に邁進したライバルに対する動力性能でのアドバンテージはない。でも、個人的な印象でいえば、このレクサスの3モデルも全然速いわけで、他があまりに速くなりすぎたというのが適当ではないかと思う。

その分を補える魅力といえば、やはり自然吸気のマルチシリンダーならではの表情の艷やかさだろう。理論振動ゼロのクロスプレーンでありながら、2UR-GSEは高回転域に向かうにつれて、爆発の感触をしっかりドライバーに伝えてくる。

スポーツドライビングへの大勢が高い、レクサスRCFファイナルエディション。
スポーツドライビングへの大勢が高い、レクサスRCFファイナルエディション。    中島仁菜

それはステアリングやシートを介して微かに伝わる心地よい鼓動感であったり、回転域や負荷と連動して音色を絶妙に紡いでいくサウンドデザインであったりと、主に物理的な応答によってもたらされるものだ。

同じパワーユニットを積む3モデルの中では、最もスポーツドライビングへの大勢が高いのは間違いなくRC Fだ。前述の通り、生活の一辺でゴルフを楽しむようにサーキットを嗜むという向きに合わせこまれたこのモデルは、エンジンを思う存分に唱わせるだけでなく、シャシーの側が司るドライビングプレジャーにおいても妥協のないところをみせてくれる。

さらに、そのアシであっても入力のカドはしっかり丸められていて日常遣いに不満はなく、Fの称号がどういう世界観に与していたのかということを端的に示している。

Fよりもより日常的なスポーティネスを標榜

IS500のキャラクターは、そのFよりもより日常的なスポーティネスを標榜した『Fパフォーマンス』という位置づけになる。よってガチガチにサーキットを走り込めば制動や冷却などに容量不足を感じることもあるだろう。

でも、スポーツ走行やワインディングを気持ちよく走れれば充分という向きにとっては、そのぶん日常のフレキシビリティが豊かであることに感銘を受けると思う。限りなく普通のセダンのように扱える一方で、気が向けばエンジン由来の官能的なドライブフィールを存分に味わうことが出来る。

日常的なスポーティネスを標榜した味付けの、IS500Fスポーツ・パフォーマンス・ファーストエディション。
日常的なスポーティネスを標榜した味付けの、IS500Fスポーツ・パフォーマンス・ファーストエディション。    中島仁菜

そもそも車格にはトゥーマッチな大排気量のエンジンを積むという時点で官能性要件なのだから、稀有な2UR-GSEの存在感を生活の中で常に感じていたいというのであれば、最適なのはこのモデルだろうといつも思う。

しっかりと我を保っている

そのふたつのキャラクターに挟まれながらもしっかりと我を保っているのがLCだ。その軸足はGTにある。バキバキにスパルタンな走りではなく、ズシッと落ち着きのある所作を前面に押し出しながら、求めればスポーツカーばりの応答性をみせてくれる。

エンジンの出力はRCFやIS500より僅かに劣る一方でトルクは僅かに上回る、そのチューニングが意味するのは、常にぶん回すわけではなく流していても充分満たされる、そんな大人のゆとりだ。

先日発表された一部改良モデル、レクサスLCピナクルと筆者。
先日発表された一部改良モデル、レクサスLCピナクルと筆者。    レクサス

タウンライドでは2000rpmも回っていれば事足りる、そんな低回転域ではひたすら静かに滑らかに振る舞う2UR-GSEは、中回転域に向かうにつれホロホロとその鼓動を高めていき、高回転域に向かってぐんぐんと吸い込まれるように増す加速度と共に、フォォーッと突き抜けるような高音を聞かせてくれる。

その瞬間に得られる快感は、ドーンと押し出されるようなターボのそれとはやはり一線を画するものだ。それは間違いなくレクサスに類稀な個性をもたらしてくれた、そして日本車の内燃機の歴史においても特筆すべきものだったのだと思う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 撮影

    中島仁菜

    Nina Nakajima

    幅広いジャンルを手がける広告制作会社のカメラマンとして広告やメディアの世界で経験を積み、その後フリーランスとして独立。被写体やジャンルを限定することなく活動し、特にアパレルや自動車関係に対しては、常に自分らしい目線、テイストを心がけて撮影に臨む。近年は企業ウェブサイトの撮影ディレクションにも携わるなど、新しい世界へも挑戦中。そんな、クリエイティブな活動に奔走しながらにして、毎晩の晩酌と、YouTubeでのラッコ鑑賞は活力を維持するために欠かせない。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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