【渡辺敏史が振り返る】レクサスのために開発された自然吸気5L V8!名機『2UR-GSE』を終焉前に味わう

公開 : 2025.08.28 11:45

自然吸気の5L V8となる『2UR-GSE』型は、レクサスのために作られ、レクサスだけに搭載されてきたエンジンです。そのデビューは2007年のIS Fでした。その終焉を前に、渡辺敏史が3台の搭載車を味わいます。

レクサスのために

自然吸気の5L V8となる『2UR-GSE』型は、レクサスのために作られ、レクサスだけに搭載されてきたエンジンだ。その誕生は2007年に発表された『レクサスIS F』に遡る。

普段は日常生活に溶け込む柔軟性を備えつつ、休日はスポーツ走行を存分に楽しめる上、その往復も快適にこなしてくれる……と、日常とサーキットをシームレスに繋ぐことを目指して企画されたそのモデルには、速さと共に気持ちよさも備わったエンジンが求められた。

取材車はレクサスRCFファイナルエディション(右)とIS500Fスポーツ・パフォーマンス・ファーストエディション(左)。
取材車はレクサスRCFファイナルエディション(右)とIS500Fスポーツ・パフォーマンス・ファーストエディション(左)。    中島仁菜

そこで白羽の矢が立ったのが、LS600h向けに開発された『2UR-FSE』型だ。これをベースに徹底したチューニングを施すことでスポーツユニットとして昇華させる。共同開発を担ったのは、トヨタの高性能エンジンづくりではお馴染みのヤマハ発動機。同社の当時の技術資料によると、狙ったのは伸び感、レスポンス、サウンドの3点と記されている。

直噴とポート噴射を併用することで各々のメリットを活かす『D-4S』の採用や、チタンバルブをはじめとするムービングパーツの軽量化、サーキットユースでもダレのない潤滑、冷却系の構築など、多岐に渡り手が加えられた2UR-GSEは423ps/6600rpmを発揮。5Lの大きなキャパシティにして6800rpmをレッドゾーンとする、高回転型ユニットとなった。

当時はメルセデスAMGのM156型やBMW MのS65型など、自然吸気V8が高性能ぶりを競い、隆盛を極めていた時代でもある。その後、各社は更なる動力性能の追求やグレードに応じたパワーの差別化、特定条件での燃費などの点において好都合な小排気量ターボ化へと邁進し、自然吸気、大排気量、多気筒のエンジンは数を減らしていく。

今や2UR-GSEのようなプロファイルのエンジンは、ごく一部のスポーツカーを除けば壊滅したといっても過言ではない。

いよいよ終焉が迫りつつある

そんな2UR-GSEも、登場から18年の時を経て、いよいよ終焉が迫りつつあるように窺える。レクサスから公式なアナウンスはないが、実質的には搭載モデルが次々と姿を消しつつあることからも、ついそのように推してしまうのは僕だけではないだろう。

ちなみに本稿執筆時点で2UR-GSEを搭載するのは、『RCF』、『IS500』、『LC500』の3モデルとなる。RCFは特別仕様車の『ファイナルエディション』をもってRCシリーズ含めこの11月に生産を終了。IS500も11月の生産終了に向けて『クライマックスエディション』と称した特別仕様車を販売中となっているが、巷ではいずれも実質完売とされているようだ。

RCFのエンジンルーム。2UR-GSE型5L V8自然吸気ユニットも終焉が迫る。
RCFのエンジンルーム。2UR-GSE型5L V8自然吸気ユニットも終焉が迫る。    中島仁菜

そしてLCは7月末に特別仕様車の『ピナクル』を発表、8月上旬までの受注期間を終えて、現在はラッキーな当選者が商談に臨んでいるところだろうか。その数はクーペとコンバーチブルで各々100台ずつだが、半分は既納ユーザー向けの枠となり、各々50台が一般ユーザーの枠となる。

このピナクルの発表に合わせて、ベースモデルのLCもドアストライカー基台の肉厚アップとダンパーセットアップの変更というごく小規模なマイナーチェンジが施された。レクサスによればLC本体の受注は継続しているということだから、実質的に2UR-GSEが搭載された最後のモデルがLC500ということになるかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 撮影

    中島仁菜

    Nina Nakajima

    幅広いジャンルを手がける広告制作会社のカメラマンとして広告やメディアの世界で経験を積み、その後フリーランスとして独立。被写体やジャンルを限定することなく活動し、特にアパレルや自動車関係に対しては、常に自分らしい目線、テイストを心がけて撮影に臨む。近年は企業ウェブサイトの撮影ディレクションにも携わるなど、新しい世界へも挑戦中。そんな、クリエイティブな活動に奔走しながらにして、毎晩の晩酌と、YouTubeでのラッコ鑑賞は活力を維持するために欠かせない。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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