【第12回】森口将之の『もびり亭』にようこそ:自動運転には育てる気持ちが大切

公開 : 2025.09.10 17:05

モビリティジャーナリストの森口将之が、モビリティの今と未来を語るこのブログ。第12回は、たびたび取り上げている自動運転への考え方を、改めて掘り下げます。

自動運転への考え方、米中との差とは

先月下旬、東京都八王子市で、実証実験中の自動運転バスが道路脇の街路樹に衝突し、乗客3人が軽いケガをするという事故がありました。これを受けて、自動運転は危険、米国や中国に比べて遅れているなどの意見が出ています。

僕は10年ぐらい前から自動運転の取材を続けており、AUTOCAR JAPANでもいくつか記事を書かせていただいています。今回はそんな立場から、日本の自動運転について書いていこうと思います。

茨城県境町のレベル2自動運転バス。
茨城県境町のレベル2自動運転バス。    森口将之

自動運転は自家用車よりも、移動サービスや物流サービスのほうが実現しやすい。自分は以前からそう思い、記事にしてきました。実際にもグローバルでその流れになっていますが、移動サービスはここにきて、米中と日本との差が明らかになっているような気がしています。

米中では、運転手のいないレベル4の自動運転タクシーの商用運行が、市街地の一般道でも始まっているのに対して、日本のレベル4は、まだシステムの監視役が乗っており、走行場所は専用道や敷地内が多く、公道走行も1〜2kmの短距離にとどまっています。

なぜここまでの差が出てきてしまったのでしょうか。

個人的に、技術的には大きな差はなく、その理由はむしろ、国民性が大きいと思っています。

米国や中国は、とりあえず走らせて、不満があれば改良しながら完成度を高めていくのに対して、日本は、実証実験を重ねていくことで不満点を洗い出し、問題なしとなったところで商用運行に移行するスタイルです。

米中は新しい技術は多少のミスがあって当然と考えているようですが、日本では八王子市の事故でわかるように、実証実験中であってもミスは許されません。実際、事故を受けて中止になりました。

こうした考え方はモビリティに限らず、日本社会全体に根付いています。

自動運転での事故は大きく扱われる

日本の昨年の交通事故死者は2700人ぐらいで、ここ数年は横ばいになっています。1日平均で7人以上が命を落としている計算になります。バスが原因と見られる交通事故は最近記憶にないですが、タクシーは先月下旬だけでも何件かあり、ひき逃げ事件までありました。

しかし我が国では、それよりも、自動運転バスが起こした軽傷者3人の事故のほうが大きく扱われます。もちろん今回の事故で被害に遭われた乗客の方々はお気の毒であり、お見舞いを申し上げますが、この結果を受けて自動運転そのものを否定してしまうことには戸惑いを感じます。

現状はシステム監視の乗務員が必要。
現状はシステム監視の乗務員が必要。    森口将之

日本でも自動運転レベル4を実現している移動サービスはいくつかあります。国内初のレベル4は、福井県永平寺町の電動カートを使った移動サービスで、鉄道の廃線跡を活用した遊歩道を2023年5月に走りはじめました。

ところが同じ年の10月、ルート上に放置されていた自転車との接触事故を起こし、積雪時期に差し掛かることもあって、翌年3月まで運行が中止されたのです。

この区間はレベル2、レベル3から発展する形で、レベル4が実現したという経緯があります。レベル2から数えれば、実績は豊富です。僕もレベル2時代に乗ったことがありますが、そのとき不安は抱きませんでした。

しかも廃線跡を活用した遊歩道ということで、そもそも放置自転車があるということ自体が考えられない場所でした。ですので事故の一報を聞いて、故意の可能性も考えましたが、それでも半年近く、運行がストップしてしまいました。

手動の運転では交通事故で死者が出ようがあまり気にしないのに、自動運転では物損事故ですら重大に扱うという人が、この日本には多いことを教えられた瞬間でした。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。

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