葉巻をくわえた時計職人、スマートを作る 「クルマのことはよく知らなかった」 歴史アーカイブ

公開 : 2025.12.24 17:25

MCC設立 夢の実現

ハイエック氏の夢は打ち砕かれたかに見えたが、そこへ救世主が現れた。保守的な企業文化の変革を迫られたメルセデス・ベンツが、手を差し伸べたのだ。

メルセデス・ベンツのデザイナーたちはすでに類似の構想を練っていた。1994年初頭には、2台のEVコンセプトカーとともに、メルセデス・ベンツとスウォッチの合弁事業「マイクロ・コンパクト・カー(MCC)」の設立が発表された。

スマートが現在開発中の新型EVプロトタイプ(ボディは先代フォーツー)
スマートが現在開発中の新型EVプロトタイプ(ボディは先代フォーツー)    スマート

1年後、まったく新しい車両によるテスト走行が確認された。このクルマは、ドイツで平均年齢34歳の166名からなる小規模チームによって設計され、2気筒ガソリンエンジンとディーゼルエンジンを搭載し、衝突安全性を確保するため新型Aクラスと同じ「サンドイッチ構造」を採用していた。ディーゼルハイブリッドとハブモーター式EVのバージョンも計画された。

そして1995年5月、新たな名称が発表された。スマート(SMART)だ。「S」はスウォッチ、「M」はメルセデス、「ART」は芸術を意味する。さらにフランス・ハンバッハに、30社のサプライヤーを敷地内に集めた「革新的な」工場が3億500万ポンド(現在の5億3300万ポンド=約1120億円)で建設されることになった。

ハイエック氏(あるいはメルセデス・ベンツ)の幻想は、ついに1997年5月に現実となった。「モビリティの未来はスマートにある」とMCC会長ユルゲン・フベルト氏は予言した。もしかしたら、今度こそ彼の予言が正しかったと証明されるかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    クリス・カルマー

    Kris Culmer

    役職:主任副編集長
    AUTOCARのオンラインおよび印刷版で公開されるすべての記事の編集と事実確認を担当している。自動車業界に関する報道の経験は8年以上になる。ニュースやレビューも頻繁に寄稿しており、専門分野はモータースポーツ。F1ドライバーへの取材経験もある。また、歴史に強い関心を持ち、1895年まで遡る AUTOCAR誌 のアーカイブの管理も担当している。これまで運転した中で最高のクルマは、BMW M2。その他、スバルBRZ、トヨタGR86、マツダMX-5など、パワーに頼りすぎない軽量車も好き。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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