【現役デザイナーの眼:ホンダ・スーパーワン】初期からシティターボIIを意識 意図が伝わる優れたデザイン

公開 : 2026.05.07 11:45

軽自動車ベースだから実現できた、スポーティなスタンス

そしてそのN-ONE e:をベースに、大胆な進化を遂げたのがスーパーワンです。

オーバーフェンダーによって全幅は1575mmまで拡大。もともと軽自動車の中でもスタンスの良かったN-ONEに、このワイド感が加わることでその存在感は一気に増しています。

そしてN-ONE e:をベースに、大胆な進化を遂げた『ホンダ・スーパーワン』。
そしてN-ONE e:をベースに、大胆な進化を遂げた『ホンダ・スーパーワン』。    本田技研工業

逆に言えば軽自動車ベースだからこそ、この迫力あるデザインが成立したのでしょう。もし完全な新設計だったなら、室内空間を優先してボディ全体を広げようとするはずなので、このような印象的なオーバーフェンダーは難しかったかもしれません。

フロントまわりは、N-ONE e:のボンネットやヘッドライトを活かしながら、横方向に広がるバンパーデザインでワイド感を強調しています。もっとアグレッシブな表現もできたはずですが、あえてやりすぎず、すっきりとした印象を優先したのでしょう。

リアもフェンダーとバンパーが一体化した立体構成で、とても明快です。N-ONE e:登場時にリアゲートまで変更されていたことに少し違和感がありましたが、このスーパーワンのリアゲート部品構成を見ると納得できます。おそらく同時進行で開発されていたのだと思います。

インテリアでは、シートの変更が特に印象的です。しっかりとしたサイドサポートを持つデザインは最近では珍しく、さらにアシンメトリーなファブリックの使い方も個性的。インパネやドアトリムなどは基本的にベース車と共通ですが、このシートだけでも十分に特別感を演出できています。

EVの新たな可能性

スーパーワンのデザイン開発では、初期段階からシティターボIIを強く意識していたようです。

これは欧州で増えている、往年の名車をモダンに再解釈するデザインと同じ考え方ですが、難しいのはどこまで新しさを加えるかです。

ホンダアクセスからは、シティターボIIをより意識した純正オプションも登場している。
ホンダアクセスからは、シティターボIIをより意識した純正オプションも登場している。    本田技研工業

たとえば『ルノー5』では、シルエットこそオリジナルに近いものの、立体構成や面の表情はまったく新しく作り直されています。それでも、スラントしたリアゲートによって、そのルーツがしっかり伝わる工夫があります。

シティターボIIの特徴は、箱のようなシルエットと張り出したオーバーフェンダーでしょう。スーパーワンは既存のベース車があるため自由度は限られていたはずですが、それでもしっかりとユーザーにその意図が伝わる。これは優れたデザインだと言えます。

これまでEVというと、一充電走行距離の長さや効率といった、使い勝手の訴求が中心でした。存在そのものの魅力や走りを楽しむためのクルマという方向性は、まだあまりなかったように思います。

しかし、スーパーワンのようにライフスタイルそのものを感じさせるデザインには、それだけで大きな付加価値があります。こうした楽しいEVが、これからもっと増えていくことを期待したいですね。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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