これがRSバージョンともなれば、もはやとてつもない領域に達している。アウディは同クラスのピュアなスポーツカーを打ち負かすだけでは飽きたらず、911ターボSや日産GT-Rにも匹敵するようなトラクションと速さを、より手頃な価格で提供しようというのだから。

これまでモーター・スポーツ部門だったアウディ・スポーツの名を、ネッカーズルムは先ごろ、市販車であるR8とRSシリーズも扱うブランドへと再編した。

そうして新たなステージに入ったRSシリーズには、カリスマ的なイメージ・リーダーが欲しいところ。そこで、誰よりも速く、そして印象的な4WDパフォーマンスカーである新型TT RSを、アウディ・スポーツ部門のエンジニアは生み出したのである。

このクルマの登場以前、Cセグメント級のハイパー・マシンといえば、メルセデスのA45 AMGだった。2.0ℓ直4ターボは360ps／45.9kg-mの圧倒的なパワーを誇り、4WDとDCTの組み合わせで、目玉の飛び出るようなスピードを路面や天候の状況を問わず発揮した。

メルセデス-AMGとブランド名を変え、マイナーチェンジも経た現在のA45は、381ps／48.4kg-mに強化され、0-100km/h加速タイムは0.4秒短縮の4.2秒をマーク。それでも価格は、TT RSより£10,000(147万円)ほど安い。

さらに16年に入ると、スーパーCセグメントの大名跡が復活した。5ドア・ボディに手の込んだ4WDシステムを載せたフォード・フォーカスRSだ。350ps／44.9〜47.9kg-mの2.3ℓ直4ターボを積み、0-100km/h加速は4.7秒。価格はA45よりさらに£10,000(147万円)ほど低い。

TT RSがスペック表通りの加速性能を発揮するとしても、速さやグリップ、万能性やエキサイティングさでもクラス・トップを謳うには、これらライバルを一蹴する必要がある。

と、比較テストに入る前に、おそらく少なからぬ読者諸兄が抱くであろう不満に言及しておくべきだろう。かつて2.0ℓターボの限界を打ち破った、日本のパイオニアが不在なのはなぜか。そう、三菱ランサー・エボリューションは現役ではないため除外した。

では、もう一方の雄、スバルは? かつてのインプレッサWRX STIの血統を継ぐ、WRX STIがあるではないか、と思われるに違いない。しかし、われわれが試乗テストで与えた星の数は、TT RSを下回る。