2台のスーパーカー・キング、ブガッティEB110、故郷への旅

公開 : 2017.04.30 00:00

対象的なインテリア

まずは工場敷地内のテスト・コースに向かい、ビオッチとトロンビがかつての仕事場を探索する。私はSSで彼らの後に続くことにした。GTのタンの革内装や木目パネルは、ドラマチックなシザー・ドアとは対照的に豪華すぎて拍子抜け。しかし無駄な装備を省いたSSのインテリアは、いい雰囲気だ。ブラックのダッシュボードが平凡なスイッチ類を目立たなくしてくれる一方、ポルトローナ製のシートはカーボンファイバーの骨格を持つ。センター・トンネルやサイド・シルは格子状にキルティングをした革でカバーされ、機能的なイメージだ。ナルディのスパルタンなステアリング、航空機スタイルのオーバーヘッド・スイッチ、真正面に見える10,000rpmまで刻んだタコメーターがインテリアのオーラをさらに強調している。パワーウインドウは備えず、GTでは電動格納式のリア・スポイラーも固定式。ルーム・ミラーの視界を邪魔するのだが……。その一方、軽量なSSにさえナカミチのカセットプレーヤーは標準装備である。

SSのインテリアはブラックのモノトーン。カーボンファイバー・シートやナルディのステアリングを備え、センター・トンネルとサイド・シルは格子状のキルティングを施した革でカバーされている。


「EB」のモノグラムを型押しした革製の飾りが付いたキーをコラムに差し込み、ひと捻りすればV12は瞬時に目覚める。アイドリングは静かだが、背後から聞こえるメカニカル・ノイズは小さくない。6速ギアボックスの手触りは低速ではやや引っ掛かり気味。暖まるのに時間がかかるが、だんだん短いレバーが滑らかに動くようになってくる。回転を合わせてダウンシフトすればさらに好感触だ。

クォーターピラーのエアインテークはチーズ削り器をヒントにしたデザイン。

まさにロケットのように次のコーナーへ

エンジンはトルキーかつスムーズで、低回転域ではエキサイティングというより洗練された印象。2段目のターボがドラマを演じ始めるのは、4000rpmを超えてからだ。サスペンションは350km/hカーには当然の硬さだが、ダンピングの効いた乗り心地は悪くない。大きな段差を乗り越えるときには異音が出るものの、速度を上げるにつれて完璧なフラット・ライドになってくる。

テスト・コースを数周するうちに、短い直線部分でもスロットルを床まで踏み付ける自信が湧いてきた。こうなるとEB110のパフォーマンスは異次元だ。爆発的なパワーの推進力と4WDの駆動力が相俟って、まさにロケットのように次のコーナーに向けて飛んでいく。低速ギアで加速する区間は限られているが、シートに背中を押し付けられる感覚には思わずニヤけてしまう。その後、郊外のオープン・ロードに向かうと、そこでは滑らかで安心感のあるパワー・デリバリーが印象的だった。F40の尖った感覚とはまったく対照的だ。トップ・エンドまで引っ張ればサウンドは独特の雄叫びに変わるが、ターン・インに向けてスロットルをオフにしたときに聞こえるウエストゲートのドラマチックな音はもっと興味深い。

さぁ、もう待ち切れない。もっと静かな環境でEB110のポテンシャルを探るべく、ビオッチの先導でモデナから南下してパブロ・ネル・フリニャーノを目指す。交通量が減るにつれ、ペースが上がってきた。ハンコックは真剣な表情でビオッチのGTを追いかける。ふたりの凄腕ドライバーがハイペースのランデブーを繰り広げ、丘の頂上に着いたところでコーヒー・ブレイクにした。

SSのリア・スポイラーはGTとは異なり固定式だ。

5000rpmから9000rpmまで続く加速

「4WDのおかげで、グリップはズバ抜けている。ブレークさせられるかと思って試してみたけれど、できなかったよ」とハンコック。「ブレーキングのときだけは、車重を意識しなくてはいけない。フローティング・ディスクの感触は、私の好みからすると剛性感が足りない印象だ。ステアリングの重さとレシオはパーフェクトだと思うが、ヘアピンでは舵角が大きくなるので操作が忙しい。タイト・コーナーでパワー・バンドから外すと素早く立ち上がるのが難しくなるが、ターボの回転を保つようにスロットル操作すれば並外れたパフォーマンスを味わえる。5000rpmから9000rpmまで続く加速は、まるでミサイルに縛り付けられたような感覚だ」

ハンコックは少年時代、自分の部屋にEB110のポスターを飾っていたという。しかし実物を見たのは今回が初めて。「本当に感動した。マクラーレンF1とこのEB110は、ひとつの時代の終わりを表しているのだと思う。それ以後はすべてがガジェットになってしまった」

現在のSSの市場価格が概ねマクラーレンF1と同等であることを考えれば、このイタリア製ブガッティの価値はかなり高いと言えそうだ。にもかかわらずF1ほど話題になっていないのは何故だろう? 理由をピン・ポイントで説明するのは難しいが、究極のスーパーカーを求める欲望の火に油を注ぐには、スタイリングがユニークすぎるし、エンジニアリングが賢明すぎるのかもしれない。ひとつ確かなのは、これを開発した人たちには溢れるほどの情熱があったということだ。


ブガッティEB110GT(SS)

生産期間 1992-1995年
生産台数 123台
車体構造 カーボンファイバー・タブ + カーボン・ケブラー・ボディ
エンジン形式 オールアロイDOHC60°V12 3500cc IHIターボチャージャー
エンジン配置 ミド
駆動方式 4輪駆動
最高出力 561ps/8000rpm(611ps/8250rpm)
最大トルク 62.4kg-m/3750rpm(66.2kg-m/4250rpm)
変速機 6段M/T
全長 4400mm
全幅 1940mm(1960mm)
全高 1125mm
ホイールベース 2550mm
車両重量 1566kg(1570kg)
サスペンション ウィッシュボーン + コイル
ステアリング パワーアシスト付きラック&ピニオ
ブレーキ ABS装着ベンチレーテッド・ディスク
0-97km 4.5秒(3.1秒)
最高速度 340km/h(349km/h)
現在中古車価格 3,000〜4,000万円(6,300〜7,000万円)

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