残骸から蘇ったロータス・エリート

公開 : 2017.06.11 00:10

若干の改良がほどこされた個体

試乗したエリートは、ロッド・エンド式のリア・ウィッシュボーンに交換し、オリジナルのプレスフィット式の代わりに工作精度を高めたラック・アンド・ピニオン式のステアリングを採用するなど、目立たない改良によっていっそう快適になっていた。いずれの改良も、安全性向上を第一にして行ったものだが、さらに、トールマン・モータースポーツが、現代のレース用ソフトウェアを利用して特別仕様のリア・ストラットを新開発し、エリートに装着したことで、減衰率やばね定数も向上している。

こうした点は、キット形態でクルマを購入し、特に発売から50年後に組み立てたことによる賜だ。時間の経過と、そして最新の自動車工学が組み合わさった結果、チャプマンの業績を現代のスペシャリストが引き継ぎ、彼の実施し切れなかった細かな改良を代行することも可能だ。

自らの手でクルマを作りたいと希望するオーナーについても同様のことが言える。ロータスは、自作市場への訴求力を高めるため、過去にセブンについて行ったと同様、1961年10月からエリートをキット形態で提供した。価格は完成車よりも363ポンド安かった(これには、シェルを保管した場合の労働集約的コストが反映されている)ものの、ボディを配送する時点で塗装と配線を済ませ、ウィンドウがはめ込んであったことから、まったくのキット状態とまでは言えなかった。

ウインドーはシート背部に収納できる。

そしてエラン

その後、エランの開発の際は、鋼板を組立てた新開発のバックボーン・シャシーの採用により、エリートよりもはるかに製作しやすいFRP製シェルが利用できるようになり、製作期間が大幅に短縮された。エラン1500は、エリートよりも350ポンド安く、販売台数が最初の1年間でエリートを上回った。

だが、エリートを開発していなければ、ロータスが、口糊をしのぐコンストラクターから、堂々たる自動車メーカーへ飛躍することはできなかっただろう。また、ロータスは、この画期的なクーペにより、クローズド・コクピット・レースに参戦できるようになり、その実績も、ロータスの評価を高めることになった。ル・マンにおいて1959年から1964年まで6年連続してクラス優勝し、熱効率指数でも数回にわたり3位内に入賞している。

1961年になると、熱効率指数賞をねらい、ボブ・マッキーとクリフ・アリソンが乗り組んだコヴェントリー・クライマックス製ツインカム750ccエンジン搭載車を含め、ル・マンの成功をもとに、さらにいくつかのバリエーションが製作された。また、前年には、イネス・アイルランドのために2ℓ版を用意したものの、出場はできなかった。セブリング12時間での数度にわたる好成績により、米国での販売も伸びた。米国では、デトロイトで生産される鉄の塊の米国車とは対照的に軽量・小排気量のエリートがいっそう輝いて見えた。

FWEエンジンのカム・カバーを飾る有名なゴダイヴァ夫人の図柄。

驚くべき残存率

しかし、1963年9月、エリートは、エランにチェスナット工場の生産ラインをついに明け渡すことになった。チャプマンは、当然ながら自分の会社を大きく見せるため、例によって生産台数を水増ししていたものの、ロータス・エリートのエンスージァストの間では、1,000台強が製作されたとする見方で一致している。そして、今もなお、その87%が現存している。驚くべき率だが、エリートの脆弱な構造と高速性能とを併せ考えると、その多くが大幅に補修、改造されており、そのレベルも個体によってまちまちだ。

イングラム氏の「新」車がこれほどまでに貴重であるのもそのためだ。エリートの性能を試すため、交通の少ない地方道を選んだ。すると、筆者は再び1957年10月にタイムスリップしていた。チャプマンの最高傑作のひとつとして名高いロータス・エリート。筆者は、英国国際モーターショーからの帰路、エリートを運転する喜びに身を任せていた。

ロータス・エリート

生産期間 1959〜1963年
生産台数 1,030台
車体構造 グラスファイバー・モノコック
エンジン形式 オールアロイSOHC1216cc
エンジン配置 フロント縦置き
駆動方式 後輪駆動
最高出力 76ps/6100rpm
最大トルク 10.4kg-m/4750rpm
変速機 4段M/T
ステアリング ラック&ピニオン
全長 3733mm
全幅 1486mm
全高 1194mm
ホイールベース 2240mm
車両重量 656kg
サスペンション ダブル・ウィッシュボーン/チャプマン・ストラット
ブレーキ ディスク(リア・インボード)
0-100mph加速(0-97km/h) 11.8秒
最高速度 184km/h
現在中古車価格 1,360万円〜

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