ハイパフォーマンス・ワゴン対決  M5 vs RS4 vs E63 AMG 前編

公開 : 2017.11.19 11:40  更新 : 2017.11.19 11:54


最大514ps、最小420ps

バイエルンでそんな政治的判断を下すミーティングをしているスキに、空席になった王座をめざとく奪い取ったのがアウディだった。

アウディのフルタイム4WDを有名にしたのはクワトロ・スポーツだけれど、アウディが高性能車な乗用車を作れるメーカーだという認識が完璧に浸透したのは1994年のRS2アバントからだ。

RS2は実用的で頑丈でワゴンだから使い勝手もよくて、犬を運搬できるクルマとしては超絶的に速かった。それに売れに売れた。BMWの予想に反して。

アウディはすかさず看板ブランドとして「RS」を独立させた。そしてどんどんシリーズを拡大してばんばん売ったわけだけれど、それでようやくBMWがM5ツーリングを復活させる気になってくれたのだからアウディはよくやった。エライ。

さて、そんなこんなで今、目の前に3台のクルマが並んでいる。この3台はどれもワゴンで、だから僕の目にはすごく魅力的に映っている。なぜならもともと「羊の皮を被った狼」っぽいクルマが大好きだし、広々として実用的なボディも理想的だから。

さらに僕は今かなり重い「目移り症候群」にかかっていて、それもまたヤバイ。なぜって最悪のタイミングで最悪のクルマを買ってしまうのがこのビョーキだから。  

ちょっと考えただけでも速いワゴンってやつは理想のクルマだとわかる。家族で揃ってお出かけ。地の果てまでのハイスピード・ドライブ。おっと愛犬を乗せるのを忘れずに。そんな家族みんなの期待に1台で完璧に応えてくれるのだから、世間で言うところのスーパーカーなんてタイクツでツマラないクルマに見えてくる。

そういうわけで、もしかしたらこのなかのどれかを僕は買ってしまうかもしれない。ヤバイ。

この15年ほどのあいだに高性能車がどれくらい高性能になったかは、この3丁のマシンガ……じゃなくて3台のマシンが明らかにしてくれている。

たとえばカタログにある最高出力の数字がいちばん小さいRS4でも、4.2ℓV8を積んで420psもある。付け加えるなら8000rpm以上回るエンジンが載っている5ドアは、僕が知る限りこのRS4だけだ。

肩をいからせたようなフェンダーフレアとガオーッと口を開けたようなバンパーインテークがルームミラーに映ったなら、覚悟を決めよう。場合によってはママのところに逃げ帰るのも効果的な対応策かもしれない。  

もっともコイツに乗っているなら話は別。その名はM5ツーリング。新しいM5はRS4と出力特性が似ている。

それが気に入らない人もいるかもしれないけれど、そもそもBMW、マセラティランボルギーニ、それにアウディは同じモジュールを使ってエンジンを作っているのだから比出力や回転特性が似ていても当たり前で、そこに噛みついても仕方がない。

それに似ているけれどM5はシリンダーが2本、RS4より多い。そして最高出力は507psで最高速は320km/hを少しだけ超える。BMWが速度リミッターを外しちゃうような野蛮なメーカーじゃなくて本当によかった。  

メルセデスがアウディやBMWとのサシの勝負で後出しジャンケンをするのはいつものことで、もう慣れっこになってズルイともスゴイとも思わない。そして案の定、E63でもやっぱりそれは変わらない。

けれど救いはあった。RS4を運転した直後に「メルセデスは同じセグメントでRS4

の94ps増しです」と言われたらと考えるとゾッする。幸いなことにメルセデスはまだ514psのEクラス・ワゴンに需要があると思っていて、当分はCクラスに同じエンジンを積む気はないらしい。僕たちジャーナリストはもう少しのあいだ幸せな人生を満喫していてもいいみたいだ。

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