フェラーリ・モンディアル 2+2にV8エンジン 現代にはない上品さ

公開 : 2019.05.16 08:40  更新 : 2020.12.08 10:40

オープンゲートのMTを操る喜び

エンジンのスタートに特別な儀式は必要ない。燃料ポンプの動く音を聞きながら、キーをONにするだけ。クラッチは現在の感覚からすると重たい部類だが、当時のフェラーリと比較すれば、油圧式だけあって軽く、滑らかにつながる点も嬉しい。走り始めてすぐ、モンディアルtが備える特徴的なパワーステアリングの操作感に気付く。最小回転直径はかなり大きいが、気に留めない方が良いだろう。

低速トルクは太いとはいえないながら、パワーデリバリーはスムーズで、市街地の交通量でも普通に走れる。ターシルは調整式のダンパーを「コンフォート」から変えなかったが、乗り心地も民主的なもの。風を感じながらスピードに乗っていくさなか、背後のエンジンルームから響いてくるノイズは特別な体験だ。

クラシカルなオープンゲートから伸びるシフトレバーをローに入れるのは、油温が低いと難しいようだが、温まってしまえばモンディアルのドライブに難しいところはない。充分速いものの獰猛な加速はせず、甘美なスロットルレスポンスを味わうための、懐の深いクルマだと思う。

スムーズで踏みごたえのあるアクセルペダルのフィーリングに合わせるように、ブレーキペダルはソリッドで漸進的。ヒール・トゥを行うのにもしっかりとした足の支点となるだろう。ドライバーの闘争心が高まり、クルマのスピードも早くなるにつれ、カチリカチリとシフトレバーがゲートを忙しく動く。

5速MTは程よくクロースレシオで、3500rpmから輝きを増していくエンジンの興奮を味わうにはピッタリの設定だ。7000rpmめがけて4本のカムシャフトが回転し、バルブが開閉していくメカニカルノイズもスリリングで、何度聞いても飽きない。

モンディアルのシャシー性能の高みを試すかのように、愛車を確かめるドライバーは満面の笑みだが、さすがに年代物のフェラーリだけに、助手席のわたしは少しの不安も感じてしまった。限界付近の穏やかな挙動を確かめてくれる必要はないのだけれど。

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