マクラーレンF1 vs マクラーレン720S 比較試乗 伝説はいまも

公開 : 2019.06.08 11:50

番外編3:目撃者たち

メル・ニコルズ編


F1テスト前夜にゴードン・マーレーが発した、何気ないが、何かを予言するようなひと言が、このクルマのパフォーマンスを示唆していた。「このクルマは、素人向きのモデルではありませんが、それでも、100psほど出力を下げるとともに、重量も大幅に増やさざるを得ないでしょう」と彼は言ったのだ。

このクルマのステアリングを握ったとき、「低いギアではハードに走らせても良いが、その後は流してみよう」と考えた。だが、実際には、こうした低いギアでは、20数秒でエンジンが吹けきってしまうため、6速にまでシフトアップする必要があった。

そこでスピードメーターを見ると、290km/hを示していたことには心底驚かされた。せいぜい240km/h程度だと思っていたのだ。だが、その後、F1はあらゆるひとびとの常識を完全に覆すこととなったのだ。

スティーブ・クロプリー編

F1のテストのために、ヨークシャー・デイルズ国立公園に集まった時の興奮は、いまでも鮮明に覚えている。何とか、そのセンター配置のドライビングシートに体を滑り込ませると、本物の速さを備えたクルマには、左右対称のシートレイアウトが最適だと言っていたゴードンの言葉が理解できた。

このクルマがどれほどの速さを、どれほど容易に感じさせてくれたか、どれほど軽く、簡単に前へと進むことができたか、そして、サーボを持たないブレーキには、やや「攻撃的な」ストッピングパワーが欠けていたことを覚えている。

それでも、個人的にクルマを評価する基準としている乗り心地だけは思い出すことができない。だが、ラッキーにも、乗り心地などF1にとっては大した問題ではない・・・

ピーター・ロビンソン編


1994年の5月初旬を決して忘れることはないだろう。良い思い出は、英国版AutocarスタッフとしてF1のテストに参加したことだったが、それも、セナが亡くなったことを除けばだ。

このクルマは多くの称賛を集めていたが、セナの死がすべてに影を落としていた。それでも、ステアリングを握るテスターを中心に、3人乗車のF1で346km/hを記録し、迫りくるコーナーを前に、メル・ニコルズが、「オーケイ、それで十分だ」と言ったのは、速度を落とせと言う指示だったんだろう。

ノンサーボのブレーキは重く、同じくノンアシストのステアリング操作には力が必要だったが、この純粋さがF1を特別な存在にしていた。そう、まるでセナのように。

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