【EVの未来は暗くない】アウディEトロンS スポーツバック 試作車に試乗

公開 : 2020.03.01 10:20

トリプル・モーターを搭載し、驚くほどのトルクベクタリング機能を実現した電動SUVのプロトタイプへ試乗した英国編集部。しかしそこから見えてきたのは、知的なモーター制御が生むコンパクト・スポーツカーの可能性でした。

トリプルモーターを搭載して間もなく登場

text:Richard Lane(リチャード・レーン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
かつて、ミニを発明したエンジニアのアレック・イシゴニス。彼を含めた技術チームが、848ccのエンジンを2来搭載した北極探査マシンとして、ミニ・モークを再発明したことがある。

1台のクルマに2基のエンジンを積むことは、そうそうあることではない。しかし電気モーターの場合、複数搭載に適したユニットなことは新しいEVを見ればよくわかる。

アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプ
アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプ

内燃エンジンと比べて、パッケージングも容易で、制御やメンテナスも難しくない。複数台を統合することで、圧倒的なパフォーマンスを引き出すこともできる。テスラモデルSポルシェタイカンの上位モデルが、前後に1基づつモーターを搭載することはAUTOCARの読者もご存知だろう。

独立した駆動モーターは、トラクションを最大化しつつ、負担も分担。効率性を大きく悪化させることもなく、貴重な航続距離を脅かす心配もさほどない。

メーカーは急速に技術的知見を高めつつある。充分な技術力さえあれば、個々の車軸制御を行うことで、重量級の大容量バッテリーを搭載していても機敏な走行を叶えることも可能だ。

今回試乗したのは、アウディEトロンSのスポーツバック。プロトタイプながら、カモフラージュは軽め。他メーカーより優れた技術力を武器に、2つではなく、3モーターを搭載したクルマを今年の春にリリースする準備を進めている。

ハイレベルな水平方向のダイナミクス性能

ファストバック・スタイルを持つSUVは、インゴルシュタットから放たれるEVとしては初めて「S」のエンブレムを獲得する。走行性能とハンドリングには、自信があるということだろう。

MEBエボ・プラットフォームを共有する既存のEトロン55クワトロから、駆動系のパッケージングを強化。バイワイヤ制御のブレーキと、冷却系も性能を向上させた。エアサスペンションも、引き締まった姿勢制御のために手が加えられている。

アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプ
アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプ

既存のEトロンとの大きな違いは、電気モーターの追加。これまではリアタイヤを駆動するモーターは1基だったが、EトロンSには2基搭載される。

ポールスター1のように、左右のリアタイヤをそれぞれ1基が受け持つ。モーターにはシングルスピードのトランスミッションが備わる。

このシステムにより、極めて正確なトルクベクタリング機能を実現できる。アウディの言葉を借りれば、ハイレベルな水平方向のダイナミクス性能を得ている。

筆者の言葉で説明するなら、ダイナミック・ドライビングモードを切り替えれば、あり得ないようなドリフト走行を楽しめる。スタビリティ・コントロールがスポーツ・モードか完全なオフになっている場合。

最新のRS6に搭載されている機械式のスポーツデフと比較して、4分の1の時間でトルク分配の制御が可能だという。また電気モーターによるベクタリングシステムは、グリップ限界領域のみで作動するのではなく、機械式LSDのような制御を行える。

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