【現存する唯一のフレンチ・クーペ】ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ 後編

公開 : 2020.11.21 16:50  更新 : 2020.12.08 08:18

スマートなボディで着飾った、1938年製ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ。内側に隠されているのは、直列6気筒エンジンに換装された、オースチン・セブンです。唯一現在まで生き残った、可憐なクーペをご紹介しましょう。

もくじ

ベースは1920年代のオースチン・セブン
わずか8900kmの走行距離
最高速度が112km/hだとは信じられない
隠しきれなかった技術不足と高すぎる価格

ベースは1920年代のオースチン・セブン

text:Jon Pressnell(ジョン・プレスネル)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
美しい見た目とは裏腹に、ボディの内側を知ると、ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペへの気持ちは冷めてしまう。オースチン・セブンのエンジンに2気筒を追加し、6気筒化された小さなエンジンが載っている。シャシーも、セブンとほぼ同じだ。

1931年でも賢明な選択とはいえなかったはず。その考えが、生産が復活した1937年に見直される、ということもなかったようだ。

ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)
ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)

リア・サスペンションは、オースチンとは違うリーフスプリングが用いられている。トルクチューブではなく、通常のプロペラシャフトが伸びている。でもシャシーはチャンネル材が用いられ、フリクション・ダンパーが乗り心地を受け持つ。

ブレーキの制御は、ケーブル式のまま。フロントは、横置きのリーフスプリングに、ドロップドビームが組み合わされている。

アルミ製クランクケースを備える1097ccの6気筒エンジンは、3本のメイン・ベアリングがパワーを受け止める。2基目のソレックス・キャブレターを備え、最高出力は27psを得ている。

マニュアルのトランスミッションは4速だが、シンクロはない。急斜面での走行性を高めるため、ローギア化してあると、ローゼンガルトは主張した。

現オーナーのデビッド・ホエールは、このメカニズムが気に入ってローゼンガルト・スーパーセプトを購入したわけではない。その理由は走行距離。取材時で、わずか8899kmしか走っていない。

わずか8900kmの走行距離

1997年にこのクルマが発見された時点で、走行距離は6514km。所有歴は明らかになっていないが、1984年まではフランス人のコレクションとして、乗らずに保管されていたという。

「フランス製のクルマが好きです。FIVA(国際クラシックカー連盟)での仕事を通じて、英国以外のクルマにも興味を持つようになりました」。とホエールが説明する。

ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)
ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)

「クラシックカーの保存には、特に強い関心があります。アメリカに住んでいた期間も長いのですが、保存については英国とは異なる価値観を持っているように思います。それが、ローゼンガルトを買うきっかけにもなっています」

「1938年以来、8900kmも走っていないんです。それ自体がユニークです。走行距離が短いクルマを保存したいと思ったことが、購入の動機。人と少し違うクルマが好きでもあります」

希少性では、ローゼンガルトは確かに抜きん出ている。しかし、クルマの価値は路上でどのように受け入れられるかにもよる。

ローゼンガルト・スーパーセプトの運転席に座ってみる。快適な運転姿勢が見つけられない。着座位置は低く、背が低ければ、大きなステアリングホイールの間から前方を見ることになる。

パリの小柄な女性が、選択することはなかっただろう。女性のドライバーを獲得したいなら、別のシートを用意するべきだった。

エンジンは確かに6気筒のように回る。当時のサイドバルブの4気筒よりは滑らかだが、シルキーと呼べるほどではない。60km/h位のスピードになると、ローラーベアリングが唸りだす。輝きは感じられない。