【ラリー・モンテカルロ優勝】1931年インヴィクタSタイプ 時価2億8000万円 後編

公開 : 2021.02.06 18:25  更新 : 2022.11.01 08:55

風光明媚な英国の丘をSタイプで駆け上る

シャシー番号S48のSタイプは、カーボディーズ社の金属製リアボディに、新しいフェンダーが付けられ、スマートな見た目へ改められている。ドナルドが取り付けた、スカットル部分の大きな冷却口は取り外された。

素晴らしい歴史を備えたSタイプだったが、GUR 624のナンバーで登録し直され、オーストラリアでは身元不明になりかけていた。だがインヴィクタを専門に扱うシーダー・クラシックカー社のデレク・グリーンのおかげで、英国へ戻ってこれた。

インヴィクタSタイプ(1931年)
インヴィクタSタイプ(1931年)

アイデンティティが明らかになったSタイプは、新しいオーナーのアラン・デ・カデネやマーク・ノップラーの手によって、2004年のル・マン・クラシックやグッドウッド・リバイバルに参加。元気な姿を披露し、会場を沸かせた。

欧州横断の自動車旅行にも出ている。デ・カデネは休日旅行として、英国コーンウォールまで走ったという。今はオリジナルのメドウズ製エンジンを保存するため、普段は別のエンジンへ載せ替えてある。

もし理想をいえば、このSタイプでモン・デ・ミュル・ヒルクライムのルートを走らせたい。1931年にドナルドが捲し上げたように。だが、風光明媚なウェセックス・ダウンズの道も悪くない。ビンテージの魅力を確かめるのには、充分刺激的な場所だ。

2021年の今では、シャシー番号S48のSタイプはラリーマシンのようには見えない。でもインヴィクタで丘を駆け登れば、ドナルドとサイモンズ、ピアスの体験を想像せずにはいられない。

硬いダンパーと正確なステアリング

幼い頃から筆者は、インヴィクタSタイプの低いプロポーションや、メルセデス風に露出したフレキシ管のエグゾーストに魅了されてきた。ラジエターグリルと、クイックリリースのキャップが付いたリアの燃料タンク。学校の授業の合間に、落書きをしたものだ。

背の高いフロントガラスは、プロポーションを乱しているとは思う。だがフラットに倒すかルーフで覆ってしまえば、英国製のスポーツカーの中でも、最もカリスマ性を感じさせる容姿が完成する。

インヴィクタSタイプ(1931年)
インヴィクタSタイプ(1931年)

アクスルがシャシーの上側に来る、吊り下げ式のリアシャシー構造は、リード・レイルトンの設計に影響を受けたもの。カーボディーズ社によるコーチワークのボディへ改良されていても、その魅力は薄まっていない。

一般道を走らせれば、低回転域での太いトルクに感心する。高速で走らせるなら、3速とトップを行き来すればまかなえる。

ラリー・モンテカルロ優勝車で特徴となるのが、車内中央にレイアウトされたシフトレバー。標準では、ボディ右側に取り付けられたリモートタイプだった。第一次世界大戦の飛行機事故で追った右腕の怪我のために、ドナルドはこの位置を好んだのだろう。

太いトルクに対応するため、重たいトランスミッションの変速感は重厚。ダブルクラッチを使えば、しっかり次のギアが選べる。

英国郊外の傷んだ路面で、Sタイプは上下に跳ねる。フリクション・タイプのハートフォード・ダンパーは硬すぎ、アスファルトを捉えきれない。そのかわりステアリングは正確で、乱れたラインを簡単に修正できる。

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