【走り抜ける真紅なポルシェ】ポルシェ911 カレラRS 3.8と928 GTS モデルラインの頂点 後編

公開 : 2021.05.09 17:45

ポルシェ928の最後を彩ったGTS。入れ替わるように登場した、911 カレラRS 3.8。モデルラインの頂点を飾った2台を、英国編集部がご紹介します。

カレラカップの公道仕様に近いカレラRS

text:Chris Chilton(クリス・チルトン)
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
ポルシェ911 カレラRS 3.8の前身に当たる964のカレラRSは、1973年から1974年のカレラRSや、その後の911 SC RSなど、ホモロゲーション・モデルに似ている。

964型の911は、1989年に登場。小柄なボディと空冷エンジンという特長はそのままに、アンチロック・ブレーキやパワーステアリング、コイルスプリングのサスペンションを獲得し、ティプトロと呼ばれたATや四輪駆動も選べるようになった。

ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)
ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)

964型のRS 3.6は事実上、カレラカップの公道仕様に近い。ボディシェルは964カレラ2などと共有ながら、シーム溶接が施され、薄く軽いガラスがはめられている。前後のボディはアルミ製で、アンダーシールすら施されていない。

防音材はほとんどなく、ブレーキは大径化。軽量なスプリングで車高は落ち、ハンサムな17インチのカップホイールを装着している。装備の整ったツーリング・モデルの車重は1300kgくらいだったが、基本的なスポーツ・モデルなら1230kgと軽量だった。

カレラと比べれば、10%ほど軽い。そこへ10ps増しの、260psを発揮する3.6Lの水平対向エンジンが搭載された。

歴代ポルシェの中でも、最高傑作の1台と評価は高い。初期の964型カレラRS 3.6の取引価格は、現在では17万ポンド(2550万円)を超える。

新車当時は、手放しで褒め称えられたわけではない。AUTOCARではレスポンスの良いエンジンと鋭い変速、ブレーキの感触などを評価しているが、硬い乗り心地と盛大なタイヤノイズには不満を漏らしている。

「ロードカーとして求める半分くらいの仕上がり」。とまとめるほど。

リア11Jのホイールを収めるフェンダー

シュツットガルトのエンジニアは、カレラRSに対する批判を気にしなかった。GTレースに注力するポルシェは、1993年に964 RSRを仕立て、ホモロゲーション獲得のために公道仕様のRS 3.8を用意した。911 ターボ以上に迫力ある見た目で。

リアフェンダーは964のターボと同じ造形ながら、押し込められるスピードライン社製のホイールは巨大。フロントは9J、リアはカウンタック級といえる11Jが隠れている。

ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)
ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)

ファットなタイヤの存在を誇示するかのように、エンジンリッドにはカレラRSのエンブレムがあしらわれる。さらに王冠のように、調整式の巨大なリアウイングが載っている。

RS 3.8のドアを閉めると、911らしく噛み合わさる音がする。928の後に座ると、少し古風でアップライト気味なコクピットが新鮮だ。

インテリアは真っ黒。急いで走るのに不必要なものは、ほとんど残っていない。右ハンドル車が作られたのはわずか3台。英国に導入されたのは1台だけだった。

ドアの内張りはシンプルで、開閉用のベルトが垂れている。ステアリングホイールは細身の3スポークで、奥に並ぶメーターが見やすい。硬いシェルで覆われたバケットシートは、ぎこちない挙動を抑え込みたいと考えるドライバーには不可欠だろう。

3.8Lエンジンを目覚めさせ、5速MTをつないでスタートさせる。リアシートのあった場所で、エンジンノイズが共鳴する。少し気持ちが落ち着かない。

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