【始まりのミドシップ】フェラーリ365 GT4 BBとマセラティ・ボーラ ミウラへ対抗 後編

公開 : 2021.08.15 07:05

1971年に誕生した、フェラーリ365 GT4 BBとマセラティ・ボーラ。ミウラに対峙したミドシップ・スーパーカー2台を、英国編集部が振り返ります。

ミドシップ・エンジンのメリット

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
マセラティ・ボーラは、5速でハミングをさえずりながら安定して走る。車内は比較的静か。ラテン系のスリリングなスーパーカーではなく、ビジネスマン向けの高速クルーザーが目指されたのかもしれない。

ステアリングは反応に優れ、軽くニュートラル。英国の公道で許されない速度域でも、ボディロールはほとんど生じない。懐が深く、まとまりが良く扱いやすい。

フェラーリ365 GT4 BBとマセラティ・ボーラ
フェラーリ365 GT4 BBとマセラティ・ボーラ

前後の重量配分は42:58と、フェラーリより後ろより。そでも、エンジンをミドシップすることでのメリットが表れているような印象だ。

路面が荒れてくると、乗り心地は落ち着きがなくなる。低速域でのステアリングは、毛糸が挟まったような不確かな感触で、不必要なフィードバックが手のひらに伝わってくる。それでも、ドライバーは強い不満を感じないだろう。

もし、マセラティがシトロエンのハイドロ・サスペンションを備えていたら、どんな乗り心地だったのだろう。思わず想像してしまった。

他方のフェラーリ365 GT4 BBのドライビング体験は、より劇場的。恐らく、多くの人が期待する通りだと思う。

フロントタイヤの位置の影響で、やや斜めの着座姿勢を強いられる。小径で太いリムのステアリングホイールは、膝の上を擦りそうな位置に伸びている。

スターターを回すと、水平に並んだ12本のシリンダーへ、滑らかに命が吹き込まれ始める。数秒ほどクランキングして、完全に目覚めた。充分に温めてから、重く漸進的なクラッチをつなぐとスムーズに発進した。

エンジンが奏でる、急激に変化するトーン

アクセルペダルの反応は精度が高く、4キャブレターを積む12気筒エンジンの回転数を正確に調整できる。感心するほど、低速域ではフレキシブルで滑らか。5速MTの感触も、ドライバーを喜ばせてくれる。

1速から2速へのシフトアップは少ししにくい。だが2速から上は、素早くスムーズにオープンゲートをたどっていける。エンジンが奏でる、急激に変化するトーンを聞いていると、変速タイミングを感知できる。

フェラーリ365 GT4 BB(1975年/英国仕様)
フェラーリ365 GT4 BB(1975年/英国仕様)

365 GT4 BBが道を急ぐのに合わせて、カムシャフトの回転音とキャブレターの吸気音も高まる。包み隠そうという、余計なお節介もない。

今回取材に協力してくれた365 GT4 BBのエンジンとトランスミッションは、リビルドから3200kmほどしか走っていないという。7700rpmのレッドラインまで回転数を上昇させることは、まだ許されなかった。

リミットの5000rpmまででも、ピックアップ加速は恐ろしいと感じるほど力強い。膝の上まで伸びているような、大きなフロントガラスを流れる景色の印象も、影響しているだろう。

意欲的に速度が増し、衰えていく感覚もない。予想よりも短時間に次のコーナーが迫ってくる。しかし公道の速度域では、気持ちが湧き立つようなドラマはほとんど生まれない。

ステアリングホイールを回すと、365 GT4 BBは狙ったライン目掛けて進路を変えていく。サスペンションのスプリングはボーラよりしなやかで、路面の影響を受けにくい。

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