【お金がかかるのは当たり前】フェラーリ 古い個体の予防的メンテナンス 劣化を防ぐ修復作業

公開 : 2021.08.12 19:25

フェラーリを走らせるにはお金がかかります。故障の不安を減らすメンテナンスプログラムについて取材しました。

極上の体験を劣化させないために

text:John Evans(ジョン・エバンス)
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

ようやく、フェラーリの魅力がわかってきた。360スパイダーのマニュアル車を借りて、お気に入りの道で運転していたときだ。

それまでミッション操作は面倒で、クラッチは重すぎるだろうと思っていた。しかし、実際にはシフトレバーは完璧に調整されており、クラッチは心地よく軽かった。サスペンションは硬くて乗り心地が悪いのではないかと思っていたが、やはりそれも間違いで、しなやかで快適だった。

英AUTOCAR編集部の記者が、英国のフェラーリ正規ディーラーを訪れた。
英AUTOCAR編集部の記者が、英国のフェラーリ正規ディーラーを訪れた。

3.6L V8エンジンには何の疑いもなかった。8500rpmのレッドラインまで回転数が上がると、マラネロの心臓から湧き上がってくる音に胸を躍らせた。

360の運転は素晴らしい体験だったが、それと同じくらい信じられないのは、そのわずか1時間ほど前に、360はガレージの手術台のような場所に置かれ、ホイールをはじめ部品の多くが取り外されていたということだ。

タイミングベルト、ブレーキライン、燃料ライン、クーラントホース、燃料ポンプ、インジェクターレール、パワーステアリングホース、ステアリングゲイター(ラックブーツ)、何十個ものOリング……数日かけて、英スウィンドンにあるフェラーリ正規ディーラーの2人の若いメカニックによって、これらすべてが取り外され、交換されたのである。

わたしはこの作業を見届けようとスウィンドンにやって来た。なぜ資格を持った整備士(ジャック)と有能な見習い(ジェームス)が、18年前の360スパイダーに何時間もかけて作業をしたのか、その理由を知りたかったのである。

トラブルを防ぐ予防メンテナンス

その答えを聞くまでに時間はかからなかった。クルマの横に置かれた台車の上には、古い部品がいくつも置かれていた。その中には、短い燃料ホースもあった。握ってみると、両端の内側の面に小さな亀裂が入っている。

360のような年代モノのクルマでは当然のことだが、ジャックの説明によると、これ以上劣化させると、ホースが破れて燃料が漏れてしまう可能性があるという。

新車だけでなく、旧車もメンテナンスプログラムを受けられる。
新車だけでなく、旧車もメンテナンスプログラムを受けられる。    AUTOCAR

「予防的メンテナンスを行っているんです」と彼は言う。

「定期点検では行わない作業です。オイル、フィルター、プラグ、ブレーキなどは定期的に交換しますが、ホース、ブレーキライン、燃料ポンプなどは故障してから交換します。わたし達は、故障する前に交換するのです」

フェラーリオーナーの懐が深いのは知っているが、必要かどうかわからない作業にお金を払うほど深いのだろうか?実はこの2人のメカニックは、360に「フェラーリ・プレミアム」と呼ばれるメンテナンス・パッケージの作業を施していたのだ。

2019年に開始されたフェラーリ・プレミアムは、登録から15年目までをカバーする「ニュー・パワー」保証の適用外となってしまった古いフェラーリを、徹底的にチェックして最新の状態に戻し、その証明書を発行するという予防的なメンテナンス・パッケージだ。

燃料、ブレーキ、冷却、ステアリング系のシステムを対象としており、現在、360、456、550、575、612スカリエッティF430、599、フェラーリ・エンツォなど、13車種が対象となっている。オーナーの予算に応じて、複数回に分けてパーツを交換することも可能だ。

いずれにしても、フェラーリ・プレミアムを受けるには、最低でも「スターター・パック」の購入が必要となる。スターター・パックの内容と価格はモデルによって異なるが、例えば360の場合、ポンプ、パイプ、バルブなどの燃料系のパーツが含まれている。英国では付加価値税(VAT)と人件費(ディーラーによって異なる)を含めて約4000ポンド(約60万円)、プレミアムはさらに8400ポンド(約130万円)かかる。

これまでのところ、英国では50台以上、欧州では約400台がこのプログラムに参加しているという。

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