【古き良き英国の伝統】デイムラー・マジェスティック 英国版クラシック・ガイド 前編

公開 : 2021.10.02 17:05  更新 : 2021.10.12 16:22

独立ブランドのデイムラーとして最後に作られたのが、V8エンジンも選べたマジェスティック。壮観なクラシック・サルーンを、英国編集部がご紹介します。

鋭い加速、驚くほど軽快なハンドリング

執筆:Malcolm Mckay(マルコム・マッケイ)
撮影:James Mann(ジェームズ・マン)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
時代遅れなデザインのコーチビルド・ボディとセパレート・シャシー構造という特徴から、1958年に発売されたデイムラー・マジェスティックは売れなかった。だが、伝統的な英国品質を象徴する内容でもあり、近年は価値を高めつつある。

マジェスティック・メジャーでは4.6L V型8気筒ヘミ・エンジンを搭載し、4輪にサーボ付きのディスクブレーキを備えている。技術的には、充分以上のものを備えていた。

デイムラー・マジェスティック/マジェスティック・メジャー(1958〜1968年/英国仕様)
デイムラー・マジェスティック/マジェスティック・メジャー(1958〜1968年/英国仕様)

車内は広々としていて、驚くほど快適で装備も豊か。職人技で仕立てられた内装は極めて高水準だが、長期間放置されていた場合なら、復元に相当な費用が必要になる。熱狂的なファン以外、状態を保つのは難しいことも確かだ。

直列6気筒のマジェスティックは、活気に溢れた豪華なビッグサルーンだった。V8エンジンを搭載するマジェスティック・メジャーはその頂点。加速は鋭く、ハンドリングも驚くほど軽快だ。

当時の試乗記を振り返ると、最小限のボディロールと、控えめなアンダーステアを評価している。当初はアシストなしだったステアリングは、マジェスティック・メジャーからパワーステアリングがオプションとして登場。ほどなく標準装備となった。

オーバースクエアのV8エンジンは、エドワード・ターナーによる力作。6気筒より11kg軽量化しつつ、20%排気量を増やし、50%以上のパワーアップを実現している。

動的性能は、当時としては相当に高かった。2t近い車重でありながら、0-97km/h加速は9.7秒、最高速度は197km/hに達している。

最高水準といえる英国伝統のサルーン

デイムラーの取締役会からバーナード・ドッカー卿とノラ・ドッカー婦人が追放されると、デイムラーの親会社になっていたBSA社は、ターナーを部門トップに据えた。腕利きのエンジン設計技術者だったが、経営には向いていなかった。

地位の高い友人が多くいたが、自身も浪費家だった。その結果、グループに深刻なダメージを与えてしまう。

デイムラー・マジェスティック/マジェスティック・メジャー(1958〜1968年/英国仕様)
デイムラー・マジェスティック/マジェスティック・メジャー(1958〜1968年/英国仕様)

デイムラーはトライアンフTR3のシャシーを利用し、2.5LのV8エンジンを搭載したスポーツカー、SP250を開発。北米市場をターゲットにすることで、経営を立て直そうと試みた。

しかし、グラスファイバー製ボディのスタイリングは美しいとはいい切れず、価格も高すぎた。販売は伸びなかった。

BSA社は1960年6月にデイムラーをジャガーへ売却。マジェスティック・メジャーは5月から生産が始まっており、ブリティッシュ・レイランド社が経営権を握る1968年まで生産が続いた。採算性の悪いエンジンの製造方法と、少量生産が決定打となった。

現在は、英国でも部品の入手は困難。いくつかの専門ガレージは対応可能な部品を発見して、修理や整備を請け負ってくれている。ボディパネルは再製造する以外に方法はない。トリムパーツ類は、まだ中古部品が出てくるようだ。

最高水準といえる英国伝統の豪華なサルーンとして、マジェスティックはこの上ない1台。運転するのもよし、リアシートに座るのもよしだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マルコム・マッケイ

    Malcolm Mckay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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