【フィアット500の歴史辿る】「カーザ・チンクエチェント」トリノ旧工場にオープン

公開 : 2021.09.26 05:45  更新 : 2021.10.09 22:15

伝説の屋上テストコース

2つめの新施設「ラ・ピスタ・チンクエチェント(500コース)」は、旧リンゴット工場再開発ビル屋上の旧テストコースに4万本の植物を植樹。庭園として開放するものである。

ラ・カーザ・チンクエチェントが「家」であるのに対し、こちらは「庭」という位置づけだ。

ラ・ピスタ・チンクエチェント
ラ・ピスタ・チンクエチェント    ステランティス

面積は2万7000平方メートル、周遊路の1周は1kmにおよび、欧州最大の屋上庭園(フィアット発表)を誇る。

監修は、2014年ミラノに完成したタワーマンション「ボスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)」で話題を呼んだイタリア人建築家ステファノ・ボエリが担当した。

この旧屋上テストコースは、従来も自動車愛好家イベントや新車発表会、さらにテナントとして入居しているホテルのゲスト用ジョギングコースに至るまで、さまざまな用途に用いられてきた。

だが半恒久的施設としては、今回のピスタ・チンクチェントが事実上、再開発後初のプロジェクトとなる。

地元紙によると、当初はEVである500eのプロモーション用途を計画していたが、その後「トリノをはじめ地域社会全体のため、永遠に残る作品に再投資することを決定した」と、ステランティスのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)兼フィアット・ブランドCEOのオリヴィエ・フランソワはふり返る。

当初オープンは2021年7月を予定していた。筆者もその段階で十分に完成していたのを確認している。

しかし、植物群の定着を考慮して、9月まで公開が延期された。

独特な欧州最大級自動車工場

フィアット旧リンゴット工場は、地上5階、全長約500mで1923年に落成した。

1フロアでの組立工程が終わるごとに上階に車両を移動させ、最後に屋上で走行試験をおこなうという、独特かつ欧州最大級の自動車工場だった。

 ラ・ピスタ・チンクエチェントで。左からフィアットのオリヴィエ・フランソワCEO、アニェッリ絵画館のジネヴラ・エルカン会長、ステランティスのジョン・エルカン会長
ラ・ピスタ・チンクエチェントで。左からフィアットのオリヴィエ・フランソワCEO、アニェッリ絵画館のジネヴラ・エルカン会長、ステランティスのジョン・エルカン会長    ステランティス

建築家ル・コルビュジエは複数回にわたり見学。また1969年の米英合作映画「ミニミニ大作戦」の撮影にも使われた。

1982年「ランチア・デルタ」生産を最後に操業を終了。

ただし解体されず、建築家レンツォ・ピアノによってリニューアルが進められた。

1990年代後半には商店街やオフィス、ホテルなどを含む複合施設へと生まれ変わっていった。屋上にはヘリポート付きドーム状会議室や、前述の絵画館が設置された。

ただし工期は日本と比較して遅く、筆者が初訪問した2000年には、自動車工場を思わせる打ち放しコンクリートがまだみられた。

旧市街から遠く、客足も今ひとつだった。さらに2002年のフィアット社経営危機で、隣接の旧フィアット航空機工場とともに建物は不動産企業に売却される。

その後2006年トリノ五輪組織委員会の入居と前後してテナントが増加。2010年の地下鉄延伸で、さらに賑わいを増した。そしてトリノ工科大学の学科も移設されて今日に至っている。

今回のカーザ・チンクエチェントとラ・ピスタ・チンクチェントによって、イタリア20世紀を代表する建築物は、再び新たな命を吹き込まれたことになる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大矢アキオ

    Akio Lorenzo OYA

    在イタリアジャーナリスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア中部シエナ在住。今思えば最初に覚えたイタリア語は「ルーチェ」「カリーナ」「クオーレ」、フランス語は「シャルマン」と絶版車名ばかり。NHK語学テキストに長年執筆。NHK「ラジオ深夜便」にも出演中。「シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザインの軌跡」(三樹書房)をはじめ著書訳書多数。

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