ジールモーター・ファットトラックへ試乗 水陸両用の捜索救難車

公開 : 2022.01.18 08:25

ジョイスティックで運転は非常に簡単

前後のオーバーハングは殆どなく、アプローチ・アングルとデパーチャー・アングルは深い。走行可能な角度は、前後方向で最大35度。横方向には22度まで耐えられるという。歩けないようなスキー場の急斜面でも、難なく登れる。

ファットトラックは、運転が非常に簡単。キーを回すと、キャタピラー社製ディーゼルエンジンのノイズが聞こえてくる。後は、ジョイスティックを傾けるだけ。エンジンは、車体下部の中央に搭載されている。運転席に近く防音材が充分ではなく、正直うるさい。

ジールモーター・ファットトラック(欧州仕様)
ジールモーター・ファットトラック(欧州仕様)

アクセルやブレーキのペダルはない。コントロールパッドのボタンを押し、ハンドブレーキを解除する。ジョイスティックの握り部分に付いたスイッチを押しながら、前方に倒すと発進できる。

走りは滑らかで文明的。ジョイスティックを目一杯前に倒し、エンジンの回転数を高めてから変速すると、順調にスピードを乗せていける。

変速は、ジョイスティック上部の2つのスイッチで行う。片方がシフトアップで、もう一方がシフトダウンだ。加速時の変速は理にかなっていると感じたが、変速時には違和感があった。少なくとも、少々不器用な筆者には。

ジョイスティックの角度を戻し減速しながら、同時に進行方向を変えてみたが、ファットトラックはこの動作が好きではないらしい。暴れ馬のように、激しくボディが前後に揺れてしまった。

同乗したカメラマンは、耐えきれずロールバーに頭をぶつけていた。流血には至らかなかったが、仮に血が滴っても車内は水で洗えるそうだ。

コミカルな見た目 能力はシリアス

筆者の運転に不安を感じたのか、林間コースではデモドライバーがジョイスティックを握ってくれた。ボディの上下動が大きく、路肩が緩いルートだったから、それで良かったと思う。

カメラマンには申し訳ないことをしたが、それ以外、ファットトラックの操縦の簡単さには驚かされた。数時間のトレーニングを経れば、アルプス山脈に登ってピクニックを楽しめるかもしれない。

ジールモーター・ファットトラック(欧州仕様)
ジールモーター・ファットトラック(欧州仕様)

低速域での乗り心地は、感心するほど良い。大きなバルーン状のタイヤは、つまりエアサスペンションでもある。スピードが上昇すると、極端に短いホイールベースが影響し、上下や前後に揺れ始める。

走破性は非常に高い。ドロでぬかるんだ急斜面も見事に登ることができていた。タイヤのグリップは強力で、安定性が高く、オフロードでもアスファルト路面を走っているかのように不安感がない。

さらに油圧を用いた特殊な駆動構造のおかげで、35度の急斜面を、毎時1mmというゆっくりとした速度で下ることも可能だという。極端な状況から無事に脱出できるか、そのまま転げ落ちるか、大きな違いを生む可能性もある。

見た目は子供が描いたクルマのような、漫画チックなカタチだが、エクストリームな条件への対応能力は圧倒的。命をさらして危険に立ち向かう捜索隊にも、リスクを減らせるジールモーター・ファットトラックは歓迎されるだろう。

獲得した能力は、至ってシリアス。コミカルな見た目とは、裏腹なほど。

記事に関わった人々

  • ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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