PHEVってホントにエコなの? 燃費・CO2排出量に「疑問」の声 EUで規制強化も

公開 : 2022.04.02 06:05

欧州を中心に人気を集めるPHEVですが、自動車メーカー公称の「環境性能」に疑問が呈されています。

WLTPは非現実的? 試験手順強化を検討

プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の燃費について、欧州でメーカーが公表しているWLTPサイクルの数値と実燃費のミスマッチが発生し、EU当局が燃費試験手順を厳格化しようとしている。電動化促進で注目を集めているPHEVだが、厳しい目で見られるようになってきた。

EUと英国は2020年1月から、より正確なCO2排出量を算出できるよう、すべての新車で燃費データ(電力使用量も含む)を測定・保存し、当局が検査できるようにすることを義務付けた。実際の状況と試験結果を照らし合わせるためだ。

環境規制の厳しい欧州では数多くのPHEVが発売されているが、その有効性に疑問符がついている。
環境規制の厳しい欧州では数多くのPHEVが発売されているが、その有効性に疑問符がついている。

PHEVは、バッテリーとエンジンを組み合わせることで、多くの場合でCO2排出量を50g/km以下に抑えられ、従来のハイブリッド車を大きく下回るとされている。その結果、さまざまな税制上の優遇措置が受けられるようになり、例えば英国では現物給付税の割引が最も手厚くなっている。

しかし、最近の調査では、PHEVの試験手順が現実からかけ離れており、実は「間違った技術」を奨励しているのではないかという疑問が投げかけられている。

これは、昨年12月に環境シンクタンクの国際クリーン交通委員会(ICCT)が発表した調査結果に基づくものだ。ICCTは、2020年モデルのBMW X1 xドライブ25eで「代表的」な試験を行い、現行のWLPTテストサイクルのどこが間違っているのかを調べた。

その結果、試験時の周囲温度23度(摂氏)というのは、あまりにも余裕のある設定であることが判明。X1 xドライブ25eの公式CO2排出量は43g/kmだが、例えばマイナス5度の低温環境では、バッテリーを主に使用する走行モードでも94g/kmと大きく上昇した。さらにバッテリー残量を維持するモードでの走行を加えると、充電のためにエンジンの稼働が増え、122g/kmに近くなるはずだという。また、エンジンを積極的に稼働し、バッテリー残量を増やす充電モードについては、CO2排出量を246g/kmまで増加させるとして厳しく批判している。

メーカーにとっては「頼りの綱」だが……

こうした主張がEUに対する圧力となっている。2月のロイター通信の報道によると、EUは2025年からPHEVの試験手順を変更する計画について「議論」しているという。

すでに2023年6月1日までに、PHEVを含むすべての自動車から収集したデータの評価を行うことになっている(英国もこれに倣っている)。万が一、排出ガスデータに過度の抜けがあると判断した場合(ほぼ確実にそうなるだろう)、EUは2027年に「2030年時点でのメーカー平均CO2排出量を調整する仕組み」を導入する予定である。

EU(欧州連合)は、自動車から取得したデータに基づき、試験手順の強化を検討している。
EU(欧州連合)は、自動車から取得したデータに基づき、試験手順の強化を検討している。

つまり、PHEVが排出量削減のための有用なツールではなくなるのだ。PHEVは自動車メーカー、特に高級車ブランドにとって、平均CO2排出量を抑えるために非常に重要な製品になっている。

英国の業界団体、自動車製造販売協会(SMMT)の統計によると、昨年、英国で最も売れたPHEVの上位10車種のうち8車種がBMWやメルセデス・ベンツなどの高級車ブランド製であった。また、フォードも排出量削減でPHEVに大きく依存している。

英国フォードの責任者であるリサ・ブランキンは、3月23日に開催されたSMMTのカンファレンスで、同社の主力クロスオーバー車のクーガPHEVについて「リスクなく電動化できる方法」と主張。路上ではメーカーの意図したとおりに製品が使用されており、「大半の人は仕組み上、ほとんどバッテリーで走っている」と語った。

PHEVは、突然の法改正に驚くほど弱い。例えばノルウェーでは、1月1日から税制優遇措置が撤廃されたことを受けて、今年1~2月の売上が2021年の同時期と比較して78%激減した。一方で、バッテリーEVのシェアは50%から80%に上昇している。

英国でも、PHEVの税制優遇措置が縮小している。例えば、2018年には購入補助金が打ち切られたほか、2021年10月25日からロンドンの超低排出ガス地帯(ULEZ)に無料で入る資格が失われた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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