400GTの美しい後継車 ランボルギーニ・イスレロ S V12を味わうグランドツアラー 後編

公開 : 2022.12.03 07:06

低速域でも驚くほど運転しやすい

ドライバーの正面、3スポークのウッドリム・ステアリングホイールの奥には、2枚の大きなイエーガー社製メーターが配されている。時速190マイル(305km/h)まで刻まれたスピードと、1万rpmのタコメーターの間に油圧計が挟まる。

車両中央側には、補機メーターがズラリ。助手席側は、当時250ポンドのオプションだったエアコンが専有している。ラジオは、現代的なソニー製へ交換されていた。

ランボルギーニ・イスレロ S(1969〜1970年/英国仕様)
ランボルギーニ・イスレロ S(1969〜1970年/英国仕様)

アクセルペダルを3回傾け、ポンピングしてからキーをひねる。数秒という長めのクランキングを経て、V型12気筒が目を覚ます。タコメーターの針は1200rpmを指しているが、実際より少し高めのように思える。

右端へ力を込めると、6基並んだサイドドラフト・ウェーバー・キャブレターの吸気音とともに、神々しいエンジンサウンドが響く。4本出しのエグゾーストから、重層的な燃焼音が放たれる。

クラッチペダルのストロークは長め。幅の広いトランスミッション・トンネルから伸びるレバーは握りやすい。発進させると、イスレロ Sは低速域でも運転しやすいことに驚かされる。ステアリングホイールも、想像ほど重くない。

ロックトゥロックは4.5回転とレシオはスローだが、反応はそこまででもない。小回りも意外に利く。思い切り切り込むと、カンパニョーロ社のマグネシウム・ホイールが深く角度を付け、キラキラと煌めくセンタースピナーを運転席から眺められる。

クラシックの魅力の中心をなすV12

5速MTのシフトゲートは横方向に広く、右ハンドル車では1速と2速がドライバーから遠い。減速時は、間違って隣のゲートにレバーを導きそうになる。うっかり間違っても、いっとき息苦しそうになるものの、太いトルクですぐに挽回できる。

シフトレバーはストロークが短く、変速感はアクセルペダルの踏みごたえとのバランスが素晴らしい。慣れれば、高い回転数を保ってイスレロ Sを操れるようになる。

ランボルギーニ・イスレロ S(1969〜1970年/英国仕様)
ランボルギーニ・イスレロ S(1969〜1970年/英国仕様)

乗り心地は少々硬めだが、肉厚なシートが巧みに細かな揺れを吸収。コーナーではフラットにボディが保たれる。公道の速度域では、アンダーステアはほとんど感取されない。

ただし、イスレロ Sはカーブの続く山道を飛ばすタイプではない。パワーウインドウを開いて、1000rpm当たり34km/hというギア比のトップに入れて、午後の会議へ急ぐためのランボルギーニだ。

今回はそんな退屈な用事はないから、4.0L V12エンジンが生み出すパワーとサウンドを繰り返し味わえる。シンプルだけれど、この上ない喜びに浸れる。

過去に試乗したランボルギーニと同じくらい、エンジンは調子が良い。このクラシックの魅力の中心をなしている。数分も経てば現代モデルと同様に親しくなれ、右足の力加減で洗練された興奮を味わえる。

イスレロ Sの仕上がりは素晴らしい。先代の400GTや後代のハラマと比較しても、グランドツアラーとしてドライビング体験は優秀。ステアリングホイールを1時間も握れば、家族の一員として迎え入れたくなる気持ちが理解できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームズ・エリオット

    James Elliott

    英国編集部ライター
  • 撮影

    トニー・ベイカー

    Tony Baker

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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