公道を走るレーシングカー BMW M1 英国版中古車ガイド 名機M88をミドシップ

公開 : 2022.12.25 08:25

レースを目的にBMWがランボルギーニと共同で開発したM1。生産477台という貴重なスーパーカーを英国編集部が振り返ります。

ランボルギーニと手を組んだBMW

歴史好きのクルマ好きにとって、1978年のBMW M1は忘れることのできない名車だろう。特徴のひとつひとつに、語れるような物語がある。ミドシップされたエンジンだけ見ても、レーシングカー仕様と同じ名機、3.5L 直列6気筒M88型ユニットなのだから。

BMW M1は、ツーリングカー・レースで戦うために開発が進められた。ターボで過給しグループ5カテゴリーで暴れまわる、ポルシェへ対抗するために。ドイツ初となる、量産のミドシップ・スーパーカーでもあった。

BMW M1(1978〜1981年/欧州仕様)
BMW M1(1978〜1981年/欧州仕様)

しかし、1970年代後半のBMWにはミドシップ・シャシーの開発が難しく、手を結んだのはイタリアのランボルギーニ。BMWがエンジンを供給するカタチが取られたが、生産に手間取り、最終的にはドイツのバウア社へ製造が任された。

職人の手で組み上げられた直列6気筒DOHCエンジンは、見事なシンフォニーを奏でた。右足へ力を込めれば、自然吸気らしく激しい空気の唸りが車内へ響いた。

最高出力は公道仕様で277psを発揮し、0-100km/h加速時間は5.8秒。最高速度は257km/hがうたわれた。このM88型ユニットは改良を受け、後にE28型BMW M5とM635CSiへも搭載されている。

エンジンは扱いやすく、BMW M1は当時としては稀有な普段使いできるスーパーカーでもあった。チーターへ手綱を付けて、散歩させるようなものだったかもしれないが。

ジウジアーロによる見事なスタイリング

インテリアは文化的。デザインが凝りすぎることはなく、それでいて特別感を醸し出す個性も備わる。シートはツイード張りで、ダッシュボードのスイッチにはドイツ語で機能が振られていた。

ドアは重厚な音を立ててしっかり閉まった。一般的なモデルから乗り換えても、違和感の小さいキャビンだといえる。

BMW M1(1978〜1981年/欧州仕様)
BMW M1(1978〜1981年/欧州仕様)

ロードマナーも優秀。路面が荒れていても、乗り心地に我慢する必要はなし。サスペンションは煮詰められ、高速域でもひたひたと路面を掴み続けた。

トランスミッションは、ドッグレッグ・パターンの5速マニュアル。ステアリングホイールへは路面やタイヤの情報が豊かに伝わり、シャシーとのコミュニケーションは取りやすかった。

この素晴らしいパッケージングを包み込んだのが、ジョルジェット・ジウジアーロ氏による見事なスタイリング。空力特性に優れ、エアインテークが最低限に開けられ、カンパニョーロ・ホイールが足元を引き締めた。

BMW M1と聞くと、ホワイトのボディを思い浮かべる読者も多いかと思うが、オレンジやレッドも良く似合う。比較的落ち着いた雰囲気のインテリアと、好対照を生み出す。

スタイリングはラテン系で、確かにドイツ車というよりイタリア車のような雰囲気を持つ。だが、それも魅力だろう。リアのバットレス後端に並ぶBMWのエンブレムで、ランボルギーニに誤解されることを防いでいる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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