290万円以下のクラシック・スポーツ TVRキミーラ 450 ポルシェ・ボクスター S 1990年代の2台

公開 : 2023.03.05 07:05

新ユーザーを招き入れる運転しやすい特性

1992年のキミーラ 450は、背中が痛くなる乗り心地や蒸し暑い車内、まともに回らないスターターモーターといった弱点を払拭した。1997年のボクスター Sは、憧れのブランドへ乗る夢を、手に届く価格帯で現実に近づけた。

ハードコアなグリフィスと兄弟関係にあったキミーラは、サンデー・チューニングや気軽なロングドライブを許容するTVRだ。従来以上に、運転しやすい特性を得ていた。

TVRキミーラ 450(1992〜2003年/英国仕様)
TVRキミーラ 450(1992〜2003年/英国仕様)

チューブラー・シャシーとエンジン、サスペンションは、基本的にクーペのグリフィスと同じ。ホイールベースも変わらない。しかしボディは前後に長く、実用的な荷室が備わる。ビルシュタインのダンパーは、しなやかな味付けだった。

その特性は、丸みを帯びたフォルムで構成され、FRPで成形されたスタイリングにも表れている。エアインテークが必要な場所に設けられ、クラシックなロードスターとTVRらしいアグレッシブさが巧みに融合されている。

それまでの特徴といえた、ドライビング体験での直接的な刺激や強い個性は、角が落とされていた。新しいユーザー層を招き入れるように。

実際、欧州市場はそれに反応した。5000台以上という、TVRとしての多売記録を更新している。

ポルシェを体験できるドライバーを拡大

ボクスター Sも、内容は異なっていたがベクトルは近かった。ミドシップ・スポーツとして傑作の1つへ数えられるに至ったが、経営を上向かせるために入魂の勢いで開発された、切り札といえるモデルだった。

初代の986型ボクスターは、新しい911の鍵さえ握っていた。エンジンとフロント・サスペンションの基本構造などを共有することで、21世紀を生き延びるための開発コストを分散させていた。

ポルシェ・ボクスター S(986型/1996〜2004年/英国仕様)
ポルシェ・ボクスター S(986型/1996〜2004年/英国仕様)

ポルシェ550 スパイダーを彷彿とさせる繊細なスタイリングと、両立された実用性が多くの人を魅了。実に16万4874台が世界中で販売され、ポルシェを体験できるドライバーを拡大した。

ダッシュボードは、今見ると少々時代を感じさせるデザインだが、失望を誘うほどではない。21世紀に近いクルマらしく、パネルの継ぎ目はピッタリ整っている。組み立て品質も高い。

ボディカラーは、少し派手目のものを探しても良いだろう。殆どが、落ち着いたシルバーや無彩色で仕立てられている。

間口の広い英国製スポーツカー

キミーラ 450のインテリアは、オースチン・ヒーレー3000を想起させる。ウッドパネルのダッシュボードがクラシカルだが、低くタイトで、やる気に満ちている。

1990年代に経営権を握っていたピーター・ウィーラー氏は、ディティールにも拘った。長いドアは、サイドミラー下部のボタンを押すと開く。シートへ腰を下ろすと、ツートーンでコーディネートされたレザーの内装が新鮮。今回の例は、比較的保守的な仕立てだ。

TVRキミーラ 450(1992〜2003年/英国仕様)
TVRキミーラ 450(1992〜2003年/英国仕様)

内装を観察すると、当時のブリティッシュ・レイランドの部品も発見できる。エアコンの送風口も、位置が不自然かもしれない。それでも細部まで気が配られ、特別なクルマに乗っているという感覚が湧く。

初夏の早朝にキーを握り、人影の少ない道を流すイメージが自然と湧いてくる。舌を巻くほどハイスピードでの疾走も朝飯前だが、快適性と実用性を備え親しみやすい。キミーラ 450は、間口の広い英国製スポーツカーだと改めて感じる。

一方のボクスター Sは、同時代のポルシェ911やキミーラ 450の半分の予算で、期待にそぐわない興奮を提供した。多くのドライバーや条件を受け入れる、安定した能力で。

比べれば、スポーツカーとしてベターなのはボクスター Sだろう。でも、エキサイティングなのはキミーラ 450だと思う。

協力:トム・アレン氏、アンディ・ロッキャー氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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