290万円以下のクラシック・スポーツ TVRキミーラ 450 ポルシェ・ボクスター S 1990年代の2台

公開 : 2023.03.05 07:05

新しいホットハッチと同等以下の値段で、魅力的な旧車が狙えるとする英国編集部。年代毎に6回シリーズでご紹介します。

必要以上のエネルギーを発散する

V型8気筒らしいトドロキを響かせながら、TVRキミーラ 450が弧を描くラインを慎重にスイングしていく。神々しいとさえ感じるサウンドだが、スピードにはいつも以上の慎重さが求められる。肝を冷やす体験は避けたい。

ポルシェボクスター Sなら、艷やかな水平対向6気筒の咆哮を気ままに堪能できる。頭上を流れる風も感じながら。アルミ製のモノブロック・ブレーキキャリパーがしっかりディスクを掴み、カーブの手前で確実に速度を落とせる。ABSも付いている。

ブラックのポルシェ・ボクスター Sと、ブルーのTVRキミーラ 450
ブラックのポルシェ・ボクスター Sと、ブルーのTVRキミーラ 450

涼しい表情を保ったまま、キミーラ 450へ追走できる。ドライバーが狙った場所へ、フロントノーズが吸い込まれていく。湿った路面へ奮闘する、ドライバーの後ろ姿を眺めつつ。

最高出力289ps、最大トルク41.4kg-mを発揮する4.5LのV8エンジンをフロントに積み、車重は1060kgに抑えられたキミーラ 450は、中回転域で必要以上のエネルギーを発散する。344psのキミーラ 500ほどではないが、ドライバーへの要求は高い。

スポーツカーとしての構成は優秀といえる。高圧縮比を持つローバー由来のV8エンジンを、ストロークの長いアクセルペダルで調整できる。ドライビングポジションは低く自然で、シャシーとの一体感も濃い。

サーキットの縁石へ乗り上げても、ブレーキペダルを蹴飛ばしても、加速しながら旋回しても、ボディ剛性は明らかに高い。ドライバーの入力が、キミーラ 450の反応へ直結している。攻め込めそうな自信が湧いてくる。

他のモデルが未完成に思えてくる

しかし、限界のエッジを過ぎるとタイヤ・ロックやスピンが待っている。ダブルウイッシュボーン式のサスペンションも、ストローク量が少々足りない。常に気が抜けない。

そんなさなか、ボクスター Sなら最高のスポーツ体験に浸っていられる。フラット6が意欲的な響きを奏で、発進時から高い精度が伝わってくる。操縦系のダイレクトさでは、比べれば薄いフィルターが介在するとはいえ。

ポルシェ・ボクスター S(986型/1996〜2004年/英国仕様)
ポルシェ・ボクスター S(986型/1996〜2004年/英国仕様)

アクセルペダルを蹴飛ばし、速度を保ってコーナーへ飛び込むと、鮮烈な回頭性で応える。慣性はほぼ存在せず、ボディロールも感じさせないまま、鋭く高速にクリアしていく。3.2Lのボクスター Sなら、シリアスな状況にも貪欲的だ。

タイヤは路面を確実に捉える。僅かな右足の角度の変化にグリップ力も対応する。濡れた路面をハードに駆けても、リアアクスルはわずかにむずがる程度。出口が見えたら、一気呵成に加速していける。

レブリミットまで使い切れば、キミーラ 450をパスすることも難しくない。繊細なフィードバックを感じながら、最後のグリップ力まで活かしきれる。1度ポルシェを味わい尽くすと、他のモデルが未完成にすら思えてくる。

1万8000ポンド(約289万円)以下のスポーツカーとして、1990年代の2台に選んだキミーラ 450と初代ボクスター Sは、不足なく速い。0-97km/h加速を6秒以下でこなし、最高速度は250km/hを超える。そして、われわれに一歩身近だった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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