「男性優位」のレストア業界を揺さぶる29歳の挑戦 クラシックカーに新たな付加価値を

公開 : 2023.04.23 18:05

クラシックカーのレストアが活発な英国ですが、いまだに男性優位な部分も。そんな中でレストア会社を設立し、4WD車の修復・改造など始めた29歳の女性がいます。厳しい現実に直面することもあるとのこと。

祖父に憧れ、29歳でレストア会社設立

英エセックスの都市コルチェスターからわずか数km、交通量の多いA120道路が一車線になったところで左折して、のどかな田舎道に入る。

いつも見慣れた農家の家屋が、取材班を出迎えてくれる。その中には、1988年式のメルセデス・ベンツGクラスが置かれている。オーブリー・オートモビルズ(Aubrey Automobiles)の2度目のレストア作品、題して「オーブリー002」である。昨年発表された、1973年型ランドローバー・シリーズ3 109(オーブリー001)を大胆にアレンジした「より親しみやすい」レストア車だ。

オーブリー・オートモビルズ社を設立したジョージア・ペックさん
オーブリー・オートモビルズ社を設立したジョージア・ペックさん    AUTOCAR

英国ではいまや、クラシックカーのレストアなんていろんなところがやっているから、特別なことではないと思うかもしれない。でもオーブリーは違う。創業者のジョージア・ペックさんによれば、「他のレストア会社はとてもマッチョだが、わたし達は違う」のだという。

オーブリーの事業を際立たせているのは、29歳のペックさん自身だ。彼女は、依然として男性優位のレストア業界において、若い女性の先駆者として頭角を現しつつある。

父親と一緒にクラシックカーをいじったり、英雄的な祖父ヘンリー・オーブリー・ペックのビデオを見たりして育ったペック氏は、昔からクルマが好きだった。「テレビでクラーク・ケントを見るのではなく、おじいちゃんを見ていたんです」と彼女は言う。祖父はレーシングドライバーであり、パイロットであり、冒険家であり、自動車愛好家であった。

19歳のとき、ペックさんは人生最初のクラシックカー、1992年式のミニを購入した。やがて彼女は、アストン マーティンDB5のような希少価値の高いクラシックカーを販売するようになる。25歳のとき、オーブリー・ペック社を設立し、「ラグジュアリーな自動車イベントとアドベンチャー」のオーガナイザーとなった。そしてすぐに、レストアにも情熱を注ぎ始めた。

「ミニはわたしにインスピレーションを与えてくれました。共感できる素敵な方法でなら、クルマには何でもできるということを気づかせてくれたんです」

若者中心のチーム 苦心することもしばしば

4WD車を得意とするオーブリーは、世界中のクライアントのために、細かい修復からユニークな改造まで幅広く手がけている。創業からわずか1年余り、すでに10件のオーダーメイドの予約が入っており、好調な滑り出しを見せている。そのうちの1台は、オーニングや家具、そして引き出し式のキッチンを備えた「ピクニック仕様」のランドローバーだ。

その作業工程は、見た目以上にずっと奥が深い。オーブリー001は、左ハンドル化、エンジンとトランスミッションのリビルド、新しいサスペンション、新しいブレーキ、亜鉛メッキのシャシーを経て、ウェンジウッドデッキ、ドリンクキャビネット、コノリーレザー張り、最新のエンターテインメント・システム、8種類のルーフ構成を備え、スイス・アルプスで新しい生活を送ることになったのだ。

性別や年齢から、悲しい思いをすることもあるそうだ。
性別や年齢から、悲しい思いをすることもあるそうだ。    AUTOCAR

オーブリーの前途有望なスタートを支えたのは、口コミと5人のスタッフ、そしてデジタルデザインを担当するペックの弟エリオット(彼がいなければ、クライアントにビジョンを示すのは難しいとのこと)という30歳以下のチームだった。

しかし、決して順風満帆だったわけではないという。「最初の頃は、パーツごとに見積もりを取っていました。あるクルマでは、内装だけで6社から見積もりを取ったのですが、1万ポンド(約160万円)も違うことがありました。すべてのパーツでコストが大きく跳ね上がっていたんです」

「決めつけはよくないですが、わたしが女で、特にこの業界に入って間もない人間なので、いくらかかるか知らないだろうと思われていたような気がします」

「電話に出る男性には2つのタイプがありました。1つは、わたしを見下し、何も知らないかのように話す人、もう1つは、純粋に親切でいい人で、わたしを助けようとする人です。悲しいことに、どちらか一方しかおらず、別のタイプはほとんどいませんでした」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ウィル・リメル

    Will Rimell

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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