減らない交通事故 ADASって本当に効果あるの? 死傷率は横ばい 「使いやすさ」に課題か

公開 : 2023.10.13 18:05

・英国の交通死亡事故は2010年からほとんど減少していない。
・普及が広がる運転支援システムだが、事故防止にあまり効果がないとの指摘も。
・「消費者の理解不足」や「システムの誤報」など、HMIにも課題か。

ADASは役割を果たしているのか

交通事故による死傷者を減らすために導入が広がるADAS(先進運転支援システム)だが、このような安全システムをドライバーが実際にどれほど活用できているのか、またその役割について厳しい目が向けられている。

ADASは、程度の差こそあれ、今やほぼすべての新車に標準装備されている。ブラインドスポットモニター(死角警告)、車線逸脱警告、緊急ブレーキアシスト、アダプティブ・クルーズコントロールなどである。米国道路交通安全局の調査によると、ADASは年間交通事故死の62%を防ぐ可能性があるという。

欧州の自動車安全テスト機関ではADASに対する評価基準の改善に動いている。
欧州の自動車安全テスト機関ではADASに対する評価基準の改善に動いている。

同様の安全システムが本格的に採用されるようになったのは2010年から15年ごろのこと。しかし、交通事故による死傷率には大きな影響を与えていないという指摘もある。例えば、同期間における英国の交通事故死者数は、2010年の1857人から2022年には1695人へとわずかに減少しただけで、2012年から2019年までの各年の平均は1762人だった。

交通事故の原因は多岐にわたるが、ADASの交通事故抑制効果に対する懸念は高まっており、欧州の自動車安全テスト機関であるユーロNCAPは、システムの「直感性」やユーザーの「受容性」に重点を置きながら、実世界での評価の改善に取り組むとしている。

ユーロNCAPのミヒャエル・ファン・ラティンゲン事務局長は、次のようにコメントしている。

「最新の安全技術の搭載をメーカーに求めることも課題ですが、真の課題は消費者にその必要性を理解してもらうことです。メディアやソーシャル・チャンネルでは、ドライバーに “オフ “にするよう促す憂慮すべき傾向があります」

「ユーロNCAPはメーカーと協力して、車室内の “騒音公害 “や、これらのテクノロジーの煩わしい機能を最小限に抑える努力をしています」

「使いやすさ」「快適さ」に課題か

ドライバーとADASの相互作用について、より深く学ぼうとしているのはユーロNCAPだけではない。2015年以来、マサチューセッツ工科大学(MIT)を拠点とする先進自動車技術コンソーシアム(Advanced Vehicle Technology Consortium)は、ADASや自動運転を含む高度な車両技術について調査を行ってきた。

使用される車両は、メーカーから供給されたものと、テスラレンジローバー・イヴォーク、ボルボS90、フォードマスタング・マッハEなど個人所有の車両があり、計測器を搭載し、すべて一般から選ばれた参加者が運転する。コンソーシアムのメンバーには、自動車メーカーやハイテク企業が名を連ねている。

ADASは今や多くの地域で「当たり前」の装備となっている。
ADASは今や多くの地域で「当たり前」の装備となっている。

英国の保険業界を支援する団体でユーロNCAPのメンバーでもあるサッチャム・リサーチも、最近加盟したばかりだ。同社の車両技術の専門家であるトム・レゲット氏は、このコンソーシアムで学びたいことについて次のように語っている。

「当社は、ドライバーがADASをどのように使用するのか、また、ドライバーが操作するヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)がどの程度優れているのかを理解しようとしています」

「これまでのテストから、システムの中核的な安全上の利点はわかっていますが、今はより多くの人々がどのようにADASを使用しているのかを知りたいのです。例えば、誰もがクルマに乗り込むとすぐに車線支援をオフにするということになれば、安全上のメリットはすべて失われてしまいます。わたし達はそれを防ごうとしているのです」

レゲット氏によれば、サッチャム・リサーチがコンソーシアムへの参加を決めたのは、ADASを使用するドライバーについて十分な調査が行われてこなかったためだという。

「ADASの利点を理解していなかったり、誤報を発したり、何らかの形で迷惑をかけたりすることから、ADASが正しく使用されていないという報告もあります。これまでのところ、MITの研究からは、システムのHMIを適正にすることが、ドライバーに受け入れられ使用されるために本当に重要であるということが示唆されています」

一方で懸念されるのは、ドライバーのADASに対する信頼が低すぎるのではなく、むしろ高すぎて、慎重な運転ができなくなっていることだ。例えば、米国道路安全保険協会(Insurance Institute for Highway Safety)による調査では、アダプティブ・クルーズコントロールを使用するドライバーは制限速度を超過する可能性が高いことがわかった。

また、車線維持などの支援システムと組み合わせることで、死亡事故のリスクが10%増加するという。研究チームのリーダーであるサム・モンフォール氏は「アダプティブ・クルーズコントロールには安全上の利点があります。しかし、ドライバーがこのシステムを誤用することで、これらの利点をどのように打ち消すかを考慮することが重要です」と指摘する。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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