ハイブリッド車やEVの「フェイクMT」は、ファンを魅了するだろうか? 英国記者の視点

公開 : 2025.01.24 06:25  更新 : 2025.01.24 08:00

新型ホンダ・プレリュードには、ヒョンデ・アイオニック5 Nのような「フェイク」のギアチェンジ機構が導入される。これは果たしてクルマ愛好家の心に響くのだろうか。AUTOCAR英国記者は少しドライな感想を抱く。

知らぬが仏

次期ホンダプレリュードに偽物のギアチェンジが導入されるというニュースは、現在我々がいるインターネット上のさまざまな場所で、愛好家たちに動揺を引き起こしている。懐疑的な意見はかなり多いが、熱狂的な意見はあまりない。

初期のプレリュードは、高回転のVTECエンジンに優れたマニュアル・トランスミッションが組み合わさった、市場で最も手頃な価格のドライバーズクーペの1つであった。

新型ホンダ・プレリュードには「S+シフト」と呼ばれるシステムが導入され、操る楽しさを追求している。
新型ホンダ・プレリュードには「S+シフト」と呼ばれるシステムが導入され、操る楽しさを追求している。    ホンダ

そのようなクルマの消滅を嘆く人は大勢いる。筆者もその1人であることを認めよう。

それで、ホンダは新型プレリュードに、一部の市場でインテグラにまだ搭載されているような、ちゃんとしたマニュアル・トランスミッションを搭載すべきだという意見もある。プレリュードはスポーツクーペなのだから、燃費などどうでもいい、と言う人もいる

また、ホンダはギアチェンジの概念さえ捨て去るべきだという意見もある。なぜなら、明らかに本物ではないし、我々を欺こうとしているからだ、我々は成長して大人になって自分自身を乗り越えるべきだ、という。

1999年公開の映画『マトリックス』の中で(古い引用で申し訳ないが)、サイファーという登場人物のセリフに次のような一節がある。

「俺はこのステーキは存在しないことを知っている。口に入れると、マトリックスが脳に信号を送ってくる。『ジューシーで美味しい』と……」

フェイク技術を嫌うというのも、一理ある主張だと筆者は思う。

そして、それは結局のところ偽物に過ぎない。このプレリュードの新しい「S+シフト」システムが何をするかというと、ハイブリッド技術を採用しながらも、効率を落とし、なおかつ本物ではないものにする。

このシステムは最新型シビックのトランスミッションから開発された巧妙な仕組みである。これは時折誤ってCVT(無段変速機)と呼ばれることがあるが、実際にはそうではない。

ホンダは当初、e-CVTと呼んでいたが、無段変速機ではないという点で、ある意味正反対である。

ガソリンエンジンは大半の時間、発電機としてのみ作動し、駆動を担うトラクションモーターに電気を供給する。シビックではエンジンが直接車輪を駆動することもあるが、それは高速道路のような速度域で、1つの固定比のみで駆動する。

ほとんどの場合、電気を作るシステムと結合され、モーターが駆動を行う。

エンジンは発電に最適な効率で稼働するが、それには問題がある。安定した回転数で稼働するエンジンは退屈な音がするのだ。

その音に慣れるか、可能であれば聞こえなくするか、あるいはホンダがシビックで行ったように、少し派手にするかだ。シビックのエンジンは、物を動かすエンジンらしく聞こえるように、見せかけのギア比で回転する。

しかし、ステアリングホイールのパドルを引くと、モーターによる回生力は変化するが、「ギア」には影響しない。

プレリュードではその点が変更され、パドルで偽のギア比を切り替える。回生ブレーキについてはどうなるか分からないが、基本的にエンジンブレーキを模倣するのは技術的に難しいことではない。

ヒョンデアイオニック5 Nは、エンジンを搭載していなくても同じことができる。つまり、回転数が高いと回生エネルギーは多くなり、低いと少なくなる。

ギアが偽物であることに変わりはないが、アイオニック5 Nとプレリュードの違いは、エンジンが本物であるということだ。EVよりエネルギー効率が低く、また固定回転数で最大効率を発揮するエンジンよりも効率が悪い。

しかし、熱や騒音による損失を伴う実際のトランスミッションを介して車輪を駆動するよりは効率的である。それが、プレリュードがそもそもハイブリッド車である理由である。さらに、EVよりも軽量で、素早い燃料補給など、エンジン車ならではの利点もある。

そして最後に、ホンダは、昔ながらの運転の楽しさを生み出せると期待している。

もし、これがすべてごまかしのように聞こえるなら、それは結局のところ、ごまかしだからだと思う。しかし、純粋主義者の筆者は懐疑的だが、ステーキとワインに対するサイファーの見解には同意できるだろう。「俺が気付いたことは何だと思う? “知らぬが仏” さ」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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