最高出力1275psと並外れた性能のマクラーレンW1 でも実は「最高速度」よりも「実用性」を重視 

公開 : 2025.03.03 06:45

マクラーレンの新型ハイパーカー「W1」は4.0L V8ハイブリッドで最高出力1275psを発生するが、スピードばかりではなく公道での操作性や乗り心地を重視したセッティングとなっている。

操縦性や乗り心地に配慮したセッティング

新型のマクラーレンW1ハイパーカーは、最高速度の数字ばかりを追い求めるのではなく、ドライバーとの一体感や実用領域での扱いやすさを優先している。

4.0Lのターボチャージャー付きV8エンジンと電気モーターを組み合わせた出力は1275psという途方もないものだが、電子制御により最高速度は350km/hに制限されている。

W1の4.0L V8ターボエンジンは、単体で928psという途方もない出力を発生する。
W1の4.0L V8ターボエンジンは、単体で928psという途方もない出力を発生する。

この数値は、W1の前身であるP1と同じだ。また、10年以上にわたって世界最速の市販車という記録を保持した1992年のマクラーレンF1(最高出力は半分)にも36km/h及ばない。

AUTOCARの取材に対し、マクラーレンが新たな速度記録を追い求めない理由について、W1車両ライン・ディレクターのアレックス・ギブソン氏は次のように説明した。

「究極の最高速度、つまりトップ・トランプ(数値を競い合う英国のカードゲーム)は、この製品で我々が追い求めるものではない」

「400km/h、450km/hに達するには、公道やサーキットでのドライビングを妥協しなければならない。この製品では、そのような妥協はしたくなかった」

「タイヤのサイドウォールを極端に硬くすることは避けたかった。なぜなら、日常的な運転での乗り心地が損なわれるからだ。このクルマの使用時間のほとんどは、ポイント・ツー・ポイント(ある地点から別の地点まで)の移動になるだろう」

マクラーレンのパフォーマンス責任者、マーカス・ウェイト氏は、W1が「ある種の調和を保つ必要がある」ため、最高速度が制限されていると指摘した。

「スピードテールよりも速く加速でき、セナよりもサーキットで速く走れるクルマであるなど、多くの役割を担っている。我々は最終的にクルマが落ち着く場所を見極めなければならなかった」

「取れる選択肢の1つは、どれだけのコーナリング性能を残すかということだが、今回は明らかにそこでトレードオフしている。ボディ床下に発生する地面効果によるダウンフォースを極限まで低減しても、クルマの下にはまだ多少の空気抵抗が残る。我々の設計した使用方法では、350km/hが現時点での適切な速度なのだ」

そのため、マクラーレンは公道でのW1の操縦性を向上させるために、いくつかの重要な決定を行った。

その鍵となるのは、四輪駆動システムを採用してトラクションを高めるのではなく、膨大なパワーを後輪だけに伝えるという決定である。

これは、マクラーレンの過去のモデルで大いに賞賛されてきたステアリングフィールを維持するための決定だとウェイト氏は言う。前輪への駆動系や電気モーターが追加されていたら、油圧パワーアシスト機構を搭載することはできなかっただろう。

また、後輪駆動を採用したことで、大幅な軽量化も実現した。

ウェイト氏は次のように語っている。

「四輪駆動では、特に加速を続ける間はトラクションに限界がある。130km/hくらいまではフロントタイヤを使うのが非常に有効だ。サーキットでは、そのメリットを活かせる部分がたくさんある。しかし、どのシステムを使うにしても、60、70、80kgの重量物を常に積んでいることになる」

「したがって、(純粋な最高速度では)ほぼ互角だが、(後輪駆動の)このクルマは全体的に完成度が高く、ドライバーを魅了する。そして、このアプローチが我々らしいと言えるだろう」

ホイールスピンを減らし、トラクションを高めるため、1速と2速ではトルクが制限されている。

チーフ・パワートレイン・エンジニアのリチャード・ジャクソン氏は、「ハードウェアの観点から、タイヤのトラクション限界が訪れる直前の位置にその制限を設定するようにしている。実際のところ、1速と2速ではちょうどトラクションの限界に達するだろう」と述べた。

W1には、さまざまな環境に適したドライビングモードが用意されており、その中には「コンフォート」という公道走行に重点を置いた設定もある。このモードでは、V8エンジン単独で発生する928psに制限されるが、即座にスロットルレスポンスを得られるようにモーターも稼働している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    役職:編集アシスタント
    2022年よりAUTOCARに加わり、ニュースデスクの一員として、新車発表や業界イベントの報道において重要な役割を担っている。印刷版やオンライン版の記事を執筆し、暇さえあればフィアット・パンダ100HP の故障について愚痴をこぼしている。産業界や社会問題に関するテーマを得意とする。これまで運転した中で最高のクルマはアルピーヌ A110 GTだが、自分には手が出せない価格であることが唯一の不満。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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