【第6回】サイトウサトシのタイヤノハナシ〜低燃費タイヤのメカニズムとタイヤグレーディング〜

公開 : 2025.03.19 17:05

タイヤ性能の指標となるグレーディング

そんな折、タイヤグレーディングが始まることになったのです。2010年のことでした。日本自動車タイヤ協会(JATMA)が主導で乗用車用タイヤの転がり抵抗、ウエットグリップを同一の基準で計測し、結果をラベルにしてタイヤに貼るというものです。

これはタイヤの銘柄ごとではなく、すべてのサイズを計測する全数検査で行われます。これまで比較広告ができなかったタイヤ業界なので、ライバルタイヤとの差がグレーディングで明示されるというのはかなり画期的なことでした。

タイヤのグレーディングは、ウエットグリップと転がり抵抗、ふたつの基準で評価を行ったものだ。
タイヤのグレーディングは、ウエットグリップと転がり抵抗、ふたつの基準で評価を行ったものだ。    斎藤聡

表を参照してもらえるとより分かりやすいと思いますが、転がり抵抗はもっとも転がり抵抗の少ない評価がAAA、ついでAA、A、B、Cと5段階に分かれています。

またウエットグリップはaが最高評価で、以下b・c・dの4段階に分けられています。ちなみに、低燃費タイヤの要件は、転がり抵抗A以上で、ウエットグリップがdに入っていること。これを満たすと低燃費タイヤに認定されます。

じつはこのグレーディング、欧州でまとめられていた内容を、約1年前倒しで日本で運用することになったものです。

日本では、基準を満たさなくてもペナルティはありませんが、欧州ではグレーディングの範囲に入らないタイヤは販売できないなどの厳しいペナルティがあり、かなり拘束力の強いものになっています。また欧州のタイヤグレーディングは、2021年5月から小変更が行われました。

転がり抵抗を示す表に戻ると、AAA・AA・A・B・Cは、ランクが1段上がるごとに転がり抵抗は1%よくなります(表2参照)。

1%じゃあわからないのでは? と思うかもしれませんが、AAA・AAについてはほかのタイヤと比較しなくてもこれはAAかな? と判るくらいの転がり抵抗の少なさです。そっとアクセルを踏み込むと、明らかに軽々と、クルマが走り出します。

また、街中で試すと周りに迷惑をかけてしまうので控えてほしいですが、10km/hとか5km/hからの惰性走行は驚くほど距離が伸びます。かすかな路面の傾斜にも感度よく反応します。転がり抵抗が少ないと、こんなに惰性でタイヤが転がるのか、きっと驚くと思います。

ひとつ注意しておきたいのは、転がり抵抗やウエットグリップ性能は、テストするときの気温や湿度で差が出るということです。もちろん補正は入るのですが、当然タイヤメーカーはよりよい結果が期待できる天候を狙ってきます。そもそも等級ごとに幅があるので、『A寄りのB』とか『B寄りのA』とか、性能差があることは頭の隅に入れておいたほうがいいと思います。

最新の低燃費性能は、ゴムの特定のポリマー端にシリカを結び付けるなど、分子レベルの改良が行われています。タイヤグレーディングを導入した2010年当初は転がり抵抗とウエットグリップの両立が難しく、転がり抵抗/ウエットグリップ=A/Cが大半でした。それが現在では、末端変性技術を用いて分子レベルでゴムを改質できるようになった結果、AA/bクラスのタイヤも多くみられるようになりました。

グレードにある程度幅があるとはいえ、このグレーディングは客観性が保てる正確さを持っているので、単体で性能をチェックするにしても、競合タイヤとの比較にしても、とても参考になると思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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