自走式バスの始まり 「馬車」とどっちが優秀? 130年前のニュース振り返り 歴史アーカイブ

公開 : 2025.03.19 18:45

バスやバンなど「働くクルマ」に初めて動力を与えたのは蒸気でした。また、1890年代にはパリの百貨店が内燃機関のトラックを導入し、ロンドンでは2階建ての電気バスが試運転を行っていました。当時の記事を振り返ります。

荷物や人を運ぶ「働くクルマ」が登場したのは…?

最初期の自動車の非力ぶりを考えると、商用車の登場は乗用車よりもずっと後のこと、と考えるのが自然だろう。例えば、1893年のベンツ・ヴィクトリアに搭載された単気筒エンジンはわずか3馬力しか出せなかった。

しかし、それは大きな誤りである。内燃機関を搭載する自走式バスが初めて作られたのが1895年(AUTOCAR誌の創刊年)で、その後まもなくバンも製造された。

129年前のAUTOCAR誌は、蒸気機関やガソリンエンジンで動く商用車を紹介している。
129年前のAUTOCAR誌は、蒸気機関やガソリンエンジンで動く商用車を紹介している。

さらに遡れば、1830年代にはロンドンで最初の蒸気バス(最高速度20km/hほど)が試運転されていた。

「蒸気自動車や石油自動車の利用がますます広まり、それらの注文が数多く出されていることは明らかだ」と、129年前の英AUTOCAR誌は書いている。「これらの車両の価値として、迅速かつ経済的な配送だけでなく、宣伝効果もあることを商人たちは理解している」

当時のAUTOCARは、隣国フランスのパリにある大手百貨店グランマガザン・ドゥ・ルーブル(Grands Magasins du Louvre)が、ガソリンエンジンを搭載したプジョーの小型トラックを試験的に導入し、200台のカートと500頭の馬よりも経済的に運用できるかどうかを検討しているというニュースを伝えていた。

そのわずか2か月後、次のような記事が掲載された。

「この車両は走行時の重量が610kgあり、時速9マイル(約14km/h)で(480kgの)荷物を運ぶことができる。午前8時から午後7時まで、この車両は連続して使用されている。馬を使用する場合は、4時間ごとに交代しなければならない」

こうしたガソリン車が導入されてから1年も経たないうちに、ルーヴルの配送料金が10分の1にまで値下がりしたのも不思議ではない。馬が不要になったことで車両の長さが半分になり、理論的には都市の交通容量が2倍になるというのも大きな利点であった。

「パリの道路は大部分が非常に狭く、バンやバスが多くのスペースを占領するため、これらの不格好な車両が動き出すまで、交通全体がしばしば完全に停止してしまう。交通がもっと速ければ、これは確実に回避できるだろう」とAUTOCARは指摘した。

当初は蒸気機関がポールポジションでスタートしたが、最初のハードルで転けてしまった。

「(パリの衣料品店である)ラ・ベル・ジャルディニエール(La Belle Jardiniere)のために製造されたセルポレの蒸気自動車は、商品配送に初めて使用されたバンの1つである」

「しかし、車両の少なくとも3分の1を機械が占めており、貴重なスペースの多くが犠牲にされている。これは、1日に大量の商品を配送しなければならない利用者にとっては非常に重要な問題である」

電気自動車も開発されていたが、1回の充電で走行できる距離が約65kmしかないことが判明し、失望を招いた。

フランスでは、蒸気バスも数台が運行していた。その斬新さと利便性から、多くの英国人が旅行代理店のトーマス・クックで蒸気バスのツアーを予約した。

しかし、やはり機械のせいで利用可能なスペースの多くが占領されてしまうという制限があった。また、爆発事故で乗客が死亡するという悲劇も起き、蒸気バスに対する評判はどんどん悪化していった。

一方、英国では電気バスの開発が続けられていた。1891年にはロンドンで大型の2階建てバスが運行されていたが、1896年に新たな発明について記事が掲載されている。

「このバスは乗客26人を収容でき、重量はわずか(2230kg)である」

「蓄電池は新しいタイプで、その重量も少し(760kg)しかない。簡単に取り外して充電できるようになっており、バスを通常ルートで走らせるのに十分な電力を供給できる」

「消耗したバッテリー1セット分の交換にかかる時間は、馬を交代させるのにかかる時間よりも短い。バッテリーは、スプリング・システムにより振動からしっかりとシャットアウトされているため、酸がこぼれる心配はない」

「そしてもちろん、モーターの動作はまったく規則的であり、車両を引っ張る馬の断続的な動きとは完全に異なる」

動力付きのバスには、停車して乗客を拾うことができるという利点もあった。馬車の場合は、バスが動いている間に乗り込まなければならない。

ガソリン動力はバン市場を急速に席巻したが、蒸気エンジンの強さは圧倒的で、多くのバスが1920年代まで、大型トラックは1930年代までコークスで走り続けた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    クリス・カルマー

    Kris Culmer

    役職:主任副編集長
    AUTOCARのオンラインおよび印刷版で公開されるすべての記事の編集と事実確認を担当している。自動車業界に関する報道の経験は8年以上になる。ニュースやレビューも頻繁に寄稿しており、専門分野はモータースポーツ。F1ドライバーへの取材経験もある。また、歴史に強い関心を持ち、1895年まで遡る AUTOCAR誌 のアーカイブの管理も担当している。これまで運転した中で最高のクルマは、BMW M2。その他、スバルBRZ、トヨタGR86、マツダMX-5など、パワーに頼りすぎない軽量車も好き。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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