【第6回】サイトウサトシのタイヤノハナシ〜低燃費タイヤのメカニズムとタイヤグレーディング〜

公開 : 2025.03.19 17:05

タイヤが大好物のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第6回は、低燃費タイヤについて。漠然と燃費改善効果を謳っていた時代を経て、今では明確な基準が設けられています。

性能に不満の多かった初期のエコタイヤ

だいぶ昔の話になります。

先輩「この間エコタイヤに履き替えたんだけどさあ、燃費ちっともよくならないんだけど(怒)。いったいどういうことなの?」いやいや、そんな怖い顔して詰め寄られても、知りませんよ。そもそも、なんでボクに聞いてくるんですか。タイヤメーカーに聞いてくださいよ。…と思いましたが口には出せません。

横浜ゴムのブルーアースは、DNA ECOSの後を受けるエコ系タイヤブランド。サマータイヤは全モデルで低燃費タイヤに相当する。
横浜ゴムのブルーアースは、DNA ECOSの後を受けるエコ系タイヤブランド。サマータイヤは全モデルで低燃費タイヤに相当する。    関 耕一郎

「転がり抵抗10%低減とか言ってるけど、いったいどうやって計測しているの? ほんとに計測しているの?」この先輩、時々核心を突くような鋭い質問をしてくるので侮れません。

省燃費タイヤの日本登場は1983年、ミシュランのスタンダードグリーンタイヤ=MXGSでした。トレッドコンパウンドにシリカを配合した、低転がり抵抗のタイヤでした。当時まだ耳慣れなかったシリカが話題になりました。

国産タイヤでは、横浜ゴムが1998年にエコタイヤ=DNAシリーズを発売します。このあたりから省燃費タイヤの認知度が少しずつ広がって行きます。

それ以前にも、転がり抵抗の少ないタイヤが低燃費グレードに装着される例はあったのですが、これが泣きたくなるくらいグリップが悪かったので、低転がり抵抗タイヤのイメージは極めて悪くなっていました。

シリカの登場が解消した二律背反

タイヤのグリップ性能は、大きく分けて2つの摩擦力があります。粘着摩擦とヒステリシス摩擦です。

簡単に説明すると、粘着摩擦は、タイヤと路面が接触したときに直接的に発生する摩擦で、摩擦面にかかる垂直の荷重に比例して摩擦力は大きくななります。

この図はミシュランのファンクショナルエラストマー3.0。最近では単にシリカを配合するだけではなく、分子レベルで合成ゴムの改良が行われている。
この図はミシュランのファンクショナルエラストマー3.0。最近では単にシリカを配合するだけではなく、分子レベルで合成ゴムの改良が行われている。    ミシュラン

タイヤが回転しながら路面に押し付けられている瞬間を切り取ってみます。

これをミクロの目で観察すると、接地面の分子とタイヤのゴム分子が互いに引っ張り合ったり圧縮されたり、あるいはちぎれたりする時の摩擦力≒ヒステリシスロスが起こります。このエネルギーロスが粘着摩擦力。主にドライ路面で発揮される摩擦力です。

一方、ヒステリシス摩擦は、タイヤのゴムが路面と接触するときに『路面の凹凸に合わせてゴムが変形し、通過すると元に戻る』過程での、ゴムの変形→回復で生じるエネルギーロスを言います。こちらはウエット路面など、タイヤが路面と強くこすれない状況で摩擦力を発生します。

この2つの摩擦力が混ざり合って発生する力が、タイヤのグリップ性能です。

では、転がり抵抗とはどんなものなのでしょうか。

タイヤで一番大きな転がり抵抗は、ゴムの変形=ヒステリシス摩擦です。これを小さくするためにはゴムの変形を小さくする、つまりゴムを硬くすれば、転がり抵抗が少なくなります。しかし、ヒステリシス摩擦が小さくなると、ウエット路面でグリップ性能が悪くなります。これが転がり抵抗を少なくするとグリップ性能が悪くなる理由です。

92年に登場したミシュランのグリーンタイヤMXGSで話題となったのは、このタイヤに配合されていたシリカでした。それまであまりなじみのなかった材料なのですが、これがコンパウンドに配合すると転がり抵抗が小さくなり、しかもウエットグリップがよくなるという魔法の材料だったのです。

シリカはポリマー(≒ゴム)に配合することでゴムを補強する役割を果たします。のちにカーボンの代替品としてサマータイヤのウエットグリップ性能を高めるのにも使われるようになりました。

冒頭の先輩の発言は、まだシリカが世に出て間もない頃の話。当時は加減速を強めにすると、省燃費のアドバンテージなど簡単になくなってしまうレベルでした。またメーカーによって、転がり抵抗が当社比10%低減とか15%低減なんて言う宣伝文句が飛び交っていましたが、そもそも当社比の比較対象になるタイヤがどのくらいの転がり抵抗なのかもはっきりしなかったり。悪意はなくてもライバルよりも優位な印象を与えるために、当社比がインフレを起こしていました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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