楽しい移動手段を求める若者へ ボンド・バグ 700ES(2) ホンダN600に迫った加速力

公開 : 2025.07.27 17:50

ウェッジシェイプの先駆者といえるバグ リライアントの技術を展開したボンド 純粋に楽しい移動手段を求める人へ 巧妙な設計でも生産は2270台 UK編集部が非凡な3輪車を振り返る

純粋に楽しい移動手段を求める若者へ

工業デザイナーのトム・カレン氏が、ボンド・バグの開発を後に振り返っている。「試作段階で、リライアントは荷室とフロント周りの拡幅を求めました。賢明な判断でしたね。コスト削減のため、単色のボディカラーを提案しています」

「フロントに、プラスティック製のエンブレムを希望する声もありました。そこで、大胆なグラフィックを提案して応えました。開発開始から最終仕様まで、1年もかかっていません」。彼のデザインは、最後まで明快といえた。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

バグの発表は1970年5月21日。リライアント・グループのトップ、レイ・ウィギン氏は、「スポーツ、ファン、エネルギー。純粋に楽しい移動手段を求める人の為のクルマです。3輪であることは偶然。新しい移動手段です」。と発言している。

当初の想定より、遥かに広い人へ受け入れられると彼は期待した。「3輪車市場は、1960年代から着実に成長しています。バグは維持費を抑えられ、バイクの免許で運転できます」。当時の自動車雑誌、モーター誌はその考えを補完するように紹介している。

高出力のアルミ製エンジンが載った700ES

目指されたのは、バグで若い層をブランドへ取り込み、年齢を重ねた後に家族向けのモデルへステップアップしてもらうこと。実際、18歳から25歳までのドライバーを優遇。ローンや保険の提案に加えて、1年間か3万8000kmまでの保証を付帯した。

バグは当初、3種の仕様が用意された。最も安価な700は、サイドガラスやホイールキャップなどが省かれ、548ポンド。だが魅力で劣り、1台しか生産されていない。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

700Eは579ポンドで、キャノピーを持ち上げる油圧ストラットにサイドガラス、ホイールキャップ、サンバイザー、ヒーターなどを装備した。628ポンドの700ESは「スーパー・バグ」と呼ばれ、高出力のアルミ製エンジンが載り、活発な走りを叶えていた。

また、700ESはゴム製フロントバンパーに偏平タイヤ、スペアタイヤ、ドアミラー、マッドフラップ、専用シート、リアピラーのストライプ・ステッカーなども獲得。シートベルトとアルミホイールは、オプション設定だった。

生産は合計2270台 非常に巧妙な設計

1973年に、リライアントは新モデルの750を発売。ボンドも748ccで32psの新エンジンが利用可能になり、選択肢は750ESの1本へ絞られた。しかし販売は振るわず、142台の750ESがラインオフした時点で生産は終了している。

バグ全体でも、2270台しか作られていない。ホワイトとライム・グリーンも6台づつ提供されたが、それ以外のボディカラーはタンジェリン・オレンジ。タイヤは、現在のラジアルとは内部の構造が異なる、グリップ力の低いバイアスが組まれていた。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

巧妙に設計されており、シートはビニールで巻かれたパッドを、シェルへ直接固定したもの。低重心化にも結びついている。エンジンは助手席側へ斜めに搭載され、多いであろう1人での運転時の重量バランスを整えている。

今回のバグのオーナー、アンドリュー・コックス氏は、友人や家族の協力を得ながら見事なレストアを施している。18年間走り込まれた後、21年間も放置されていたという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・チャールズワース

    Simon Charlesworth

    英国編集部
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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