フォード、低価格EVにルノーの技術採用へ 欧州市場シェア回復急ぐ 『フィエスタ』後継車も登場か

公開 : 2025.12.11 07:05

米フォードと仏ルノーが戦略的提携を発表しました。フォードの欧州向け低価格EVに、ルノーのプラットフォームを採用します。EV販売不振に対応し、2028年以降に『フィエスタ』後継など2車種を発売する予定です。

ルノー5のプラットフォームを活用

米国の自動車メーカーであるフォードが、フランスのルノーとの戦略的提携を発表した。ルノーのEV専用プラットフォームをベースとした、少なくとも2車種の「低価格」EVを発売する計画だ。

このEVシリーズの第1弾は2028年初頭に登場する予定で、フォードの大人気ハッチバック『フィエスタ』の後継車となる見込みだ。ルノー5 Eテックと多くの部品を共有し、フランス・ドゥエーのエレクトリシティ工場で生産される。

フォード『エクスプローラー』
フォード『エクスプローラー

第2弾は、ルノー4 Eテックをベースにした小型電動クロスオーバー車となる見込みだ。これは『プーマGen-E』の後継となる可能性があるが、具体的な発売時期や仕様はまだ明らかにされていない。

2車種とも、ルノーのバッジエンジニアリング車(OEM車)ではなく、独自に開発されることになる。フォードは、完全な自社設計による「フォードブランド独自のEV」になると明言している。

また「特徴的な走行性能を備え」、「正真正銘のフォードブランドのDNAと直感的な体験」を提供するという。

ただし、それ以外の部分では、ルノーとハードウェアの大半を共有する可能性が高い。つまり、仕様に応じて最高出力123psから218psを発生するフロントアクスル搭載モーターと、40kWhまたは52kWhのバッテリーが採用されるだろう。バッテリーは2028年までに、ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)からよりコスト効率の高いリン酸鉄リチウムイオン(LFP)へ切り替えられる予定だ。

第1弾のEVは、2023年に生産を終了したフィエスタ以来のBセグメント車となる。フィエスタは8世代、ほぼ半世紀にわたり生産されたが、ドイツ・ケルン工場で電動SUVの『エクスプローラー』と『カプリ』の生産に切り替えるため廃止された。

欧州におけるフォードの市場シェアは、過去最高の約12%から現在は4%未満まで落ち込んでいる。以前、高価格帯の電動SUVに対する需要低迷を補い、シェア回復を図るために、手頃な価格の小型車に復帰する可能性を示唆していた。

エクスプローラーとカプリの販売は振るわず、フォードは最近、ケルン工場で最大1000人の人員削減を余儀なくされ、生産体制を1交替制に縮小した。欧州のEV普及率が当初の予測を大幅に下回っていることを受け、2030年までに欧州での完全電動化計画も撤回した。

フォルクスワーゲンに続く2社目の提携先

先月『フォーカス』の生産が終了したことで、欧州向けの乗用車ラインナップは、ほぼ完全にSUVと『トランジット』をベースとしたMPV(ミニバン)で構成されるようになった。さらに、車両平均価格は2万6000ポンド(約540万円)以上からと、同社の長い歴史の中で過去最高を記録している。

高級化戦略の結果失った市場シェアを取り戻すためには、フィエスタサイズのモデルを復活させることが極めて重要だ。さらに、新型車の開発コストを抑え、費用対効果を高める必要がある。

ルノー『5 Eテック』
ルノー『5 Eテック』

欧州における他社との提携関係は、今回で2度目となる。すでにフォルクスワーゲンと提携し、同社の『MEB』プラットフォームをエクスプローラーなど複数車種に採用している。提携は商用車にも及び、フォルクスワーゲンのアマロックとトランスポーターをフォードが生産している。

今回のルノーとの提携も、乗用車だけでなく小型商用車(LCV)にも適用される。ただし、この分野に関しては「協業の可能性を探る」こと以外に詳細は明らかにされていない。同じバンをフォードとルノーの両ブランドで販売する可能性もある。

フォードのジム・ファーリーCEOは次のように述べた。

「ルノー・グループとの戦略的提携はフォードにとって重要な一歩であり、欧州で高効率かつ将来を見据えた事業基盤を構築する支えとなります」

「ルノー・グループの産業規模とEV資産に、フォードの象徴的なデザインと走行性能を融合させ、楽しさと実力を兼ね備えた、フォードらしさが際立つクルマを創造していきます」

ルノー・グループのフランソワ・プロヴォスト最高経営責任者(CEO)は、この合意を「欧州における当社のパートナーシップノウハウと競争力の強さを示すもの」と歓迎した。

この発表の背景で、欧州連合(EU)は内燃機関搭載車の新車販売禁止を2035年から2040年に延期することを検討している最中だ。これはEV普及予測の修正に沿った動きであり、ファーリー氏は「欧州自動車産業の存続に不可欠」だと述べている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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