ウェッジシェイプの隠れた先駆者 ボンド・バグ 700ES(1) 誕生は半世紀前でも未来のクルマ?

公開 : 2025.07.27 17:45

ウェッジシェイプの先駆者といえるバグ リライアントの技術を展開したボンド 純粋に楽しい移動手段を求める人へ 巧妙な設計でも生産は2270台 UK編集部が非凡な3輪車を振り返る

別世界から来たクルマに見えた半世紀前

スーパーカーに多い、横から見たカタチがくさび状の「ウェッジシェイプ」ボディは、驚きとともに好意的に受け止められがち。しかし、ボンド・バグは違うかもしれない。

カテゴリー分けするなら、戦後のメッサーシュミットKR175やBMWイセッタといった、マイクロカーに含まれる。それでも、より普通のクルマのように乗れた。英国では笑いのネタになることもあるが、過小評価されている1台だろう。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

半世紀前は、別世界からやって来たクルマに見えた。近未来からワープしたように。フロントノーズから真っすぐルーフへ伸びるラインは、今でも充分なインパクトを与える。今回の車両のオーナー、アンドリュー・コックス氏が往年を振り返る。

「始めてバグを見たのは、1974年。知人が乗っていたんです。自分も欲しいと思いましたが、当時は無理でした。10年ほど前に、とあるカーイベントへ参加した時、子どもが未来のクルマだって叫んでいましたよ。もう、45年も経っていたのに」

他社に先駆けて量産化されたウェッジシェイプ

ウェッジシェイプというスタイルを創造したのは、デザイナーのマルチェロ・ガンディーニ氏だといわれる。1968年のコンセプトカー、アルファ・ロメオ・カラボで。

先細りのスタイリングは、1960年代前半には提案されていた。だが、量産には至らなかった。カラボも、ディーラーには並んでいない。ランボルギーニカウンタックの発売は1974年。それより先の1970年に、バグは英国の公道を走り始めている。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

これより古いウェッジシェイプの量産車を、思い浮かべることは難しい。しかし、バグは自動車史では忘れ去られた存在になっている。その理由は、タイヤが3本だからだろう。皮肉好きな英国人に、からかわれた過去が影響しているはず。

とはいえ、フロントタイヤ1本というレイアウトが、完璧なウェッジシェイプを実現していることは事実。真横から眺めると、迷いのない三角形だと分かる。フロントノーズのNACAダクトが、正面の表情を作る。

ビートルへ通じる温かみのある特徴

コックスは、不安定さに対する疑念を否定する。「確かに、丁寧には扱う必要があります。でも、タイヤが4本のクルマでも横転することはあるでしょ?」。そう説明する彼は、相当な距離をこのバグで移動してきた。

季節や天気を問わず、コックスはバグを走らせる。グレートブリテン島からフランス・パリまで、旅行したこともあるという。16時間半をかけて。

ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)
ボンド・バグ 700ES(1970年~1973年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

「エッフェル塔の前に停めて、ルーフを持ち上げて写真を取りました。道路の反対側からカメラを構えていたら、観光客がちゃっかり座っていて驚きました。運転しているだけで、沢山の笑顔と出会えます。笑顔は伝播していくでしょ。最高の気分ですね」

フォルクスワーゲンビートルも、見かけるとつい微笑んでしまう。温かみのある1970年代らしい特徴が、どちらにも宿っているのだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・チャールズワース

    Simon Charlesworth

    英国編集部
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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