満ちる安心感と幸福感 ロールス・ロイス・カマルグ(2) 特定の角度が美しい長大ボディ

公開 : 2025.12.07 17:50

直近100年で最も物議を醸したロールス、カマルグ ラインオフまでに半年 マルティンへ託されたスタイリング 安心感と幸福感に満ちた移動体験 当時最も高価な量産車を、UK編集部が振り返る

529台が納車されたカマルグ

ロールス・ロイス・カマルグの生産は1986年まで続き、計529台が納車されている。試作車などを含めると、534台が形になったようだ。英国では136台が売れ、著名人に好まれたが、減税手段として企業に購入される場合も多かった。

中東でも支持を獲得し、イラン国王が2台購入するなど、合計75台が輸出されている。最大の市場はアメリカで、146台が大西洋を渡った。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

カマルグの初期仕様は10000シリーズと呼ばれ、1977年以降の中期型は30000シリーズ。1981年から生産終了までのモデルは、VINシリーズと呼ばれる。

今回の例は、1976年式の10000シリーズ。1977年にスコットランドのディーラーへ送られるが、中東へ輸出され、2年後に帰郷している。修理・整備を受けた後、何度かの売買を経て、2015年に現オーナーのスティーブ・プレベット氏が購入したという。

特定の角度から見ると優雅で美しい

数年カマルグを楽しんだプレベットは、ロールス・ロイスを専門に扱う職人、クリス・モロニー氏へリフレッシュを依頼する。リアウインドウ周辺がサビ、パネルの修理が必要なことは明らかだった。

ボディは地金に戻され、内装のレザーは再染色。ウッドパネルは張り直されるなど、丁寧なレストアが施された。シトロエンSMやアストン マーティンDBSなども所有するプレベットだが、カマルグの方が運転しやすいとか。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

全長5169mmという長大なボディは、特定の角度から見ると優雅で美しいが、数歩角度を変えると調和が崩れる。それでも、思わず見つめてしまう魅力がある。コバルト・ブルーの塗装が、イタリアと英国が融合したフォルムを際立たせる。

車内空間の幅を求めて、リアトレッドは広い。リアデッキへ滑らかに結ばれるルーフが、シャープな外形のグラスエリアを覆う。バンパーの形状も、見事に馴染んでいる。

安心感と幸福感に満ちた移動体験

ドアはアルミ製だが、長く重い。ゆったりしたフロントシートを前へ倒さず、小柄な大人ならリアシートへ座れそうだ。その後席は、左右に独立した2名がけ。足元の空間にはゆとりがあり、安楽な体勢で落ち着ける。リアのサイドウインドウは開かないが。

インテリアはカマルグ専用のデザインで、高級感が充満する。天井の内張りにはパッドが入り、ダッシュボードに並ぶスイッチ類や警告灯、ベンチレーションのデザインは、航空機のものへ似ている。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

前席側は、当初の要件通りシルバーシャドーより広い。前後左右の視界に優れ、長いボンネットが目線の先へ広がる。ステアリングホイールやペダルは、至ってスムーズ。適度な感触を伴い、安心感と幸福感に満ちた移動体験へ浸れる。

窓の開閉も静か。エアコンは、短時間に望んだ温度へ調節してくれる。レザーの優しい香りを届けながら。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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