ぶつけて、学ぶ 事故調査のための衝突実験イベント 英国「クラッシュ・デイ」参加レポート
公開 : 2025.10.10 17:45
クルマの衝突事故が発生した際、どのようなことが起こるのか。警察や保険会社などの事故調査員向けに英国で毎年開催されている衝突実験イベント「クラッシュ・デイ」に参加しました。事故時の損傷の原因究明に活かされます。
「衝突時に何が起きるか」を目の当たりにする
クルマの衝突事故を目撃する人はほとんどいない。それは良いことだが、事故原因を解明しなければならない警察や、事故後の対応に追われる弁護士や保険会社にとってはそうとも限らない。
だからこそ、英国の交通事故調査協会(ITAI)は毎年「クラッシュ・デイ」を開催している。その名の通り、クルマの事故に特化した1日で、協会の会員や関連サービス関係者も招待される。

こう疑問に思う人もいるかもしれない。ユーロNCAPのような機関が最新モデルの衝突試験を行っているのに、なぜITAIが同じことを1日かけて行う必要があるのかと。
「ユーロNCAPの試験は重要ですが、性質が異なります」と説明するのは、独立事故調査員クリス・ゴダード氏だ。彼は英国の警察でも同様の業務に従事した経験があり、クラッシュ・デイでは写真撮影を担当していた。
「ユーロNCAPの衝突試験は厳密に管理され、車両の安全性を検証することを目的としています。一方、ITAIの試験はより現実的な状況に近く、調査員の理解力を高めることが目的です。今日の実験をいくつか見た後、(調査官は)いつか事故現場に赴いたとき、似たようなタイヤ痕や損傷を見て、『何が起きたか分かった。あの損傷や痕は以前にも見たことがある』と言うかもしれません」
今年のクラッシュ・デイは、ダービーシャー州アッシュボーン近郊のダーリー・ムーア飛行場で行われた。ここは英国空軍の元訓練基地(現在はモータースポーツやイベントの会場)だ。
高速衝突試験が滑走路の短い区間で行われ、低速衝突試験はその隣のエリアで実施された。衝突試験に用いられる車両は24台で、そのほとんどが警察に押収された、あるいは裁判所命令の対象となったハッチバックだった。
標識柱や道路脇のキャビネットといった障害物、そして停車中の車両との衝突など、12件の衝突試験が計画されていた。車両はすべて遠隔操作で運転される。
その日の最初の衝突実験では、ヴォグゾール・メリーバが90km/hの速度でアルミ製ポールに激突した。このポールはパッシブ・オブジェクトと呼ばれ、乗員に重傷を負わせずに車両を減速させるよう設計されたものだ。メリーバのフロントエアバッグは両方とも作動したが、フロントガラスは無傷で、キャビンはバルクヘッドにより保護されていた。
衝突後、車両は約100m転がり続けた。舞い上げられた塵が落ち着いた後、見学者が車両を取り囲み、損傷箇所や現場を調べた。
その後、ルノー・クリオが100km/hで従来の非パッシブ式標識柱に衝突した。結果は先ほどのポールと大きく異なった。標識柱は車両前部を破壊し、ほぼ瞬時に停止させた。もし人が乗っていたら、この衝撃で乗員は命を落とすか、少なくとも重傷を負う結果となったであろう。
しかし、一部の参加者は、衝突の結果は前の実験より深刻だったものの、少なくとも車両の移動は阻止されたと主張した。
ゴダード氏は、昨年行った同様の実験を振り返り、その時は標識柱が車両底面に傷跡を残したと語った。
「標識柱は坂道のような働きをして、車両を空中に跳ね上げ、シャシーに引っかき傷を残しました。衝突と傷跡を目にしていなければ、同様の損傷には意識を向けないでしょう。法医学には『あらゆる傷は痕跡を残す』という原則があります。自動車事故では数千もの接触点が生じます。わたし達の仕事はそれらの原因を解明することです」


