『ウニモグ』はメルセデス・ベンツの影の立役者! 汎用性の高さはピカイチ 英国記者の視点

公開 : 2025.10.28 17:45

メルセデス・ベンツの中でも特に印象的なクルマが『ウニモグ』です。普段目にする機会は少ないものの、農業から鉄道、ダカール・ラリーまで幅広い用途で活躍するウニモグは、まさに「万能」車両と言えるでしょう。

GクラスSクラスよりも強烈な印象を残すクルマ

さて、いきなりだがここでクイズ。小さな家ほどの大きさで、地球上のほぼどこへでも行ける、1948年から存在している乗り物は何か?

答えは『ウニファーサル・モートル・ゲレート(Universal-Motor-Gerat)』、通称『ウニモグ』だ。この巨大なクルマの物語は、第二次世界大戦後間もないドイツで始まる。

農業から鉄道、軍事、果てはダカール・ラリーまで、幅広い用途で活躍している。
農業から鉄道、軍事、果てはダカール・ラリーまで、幅広い用途で活躍している。

戦後の厳しい状況の中、元航空技師のアルベルト・フリードリヒ氏はトラクターの設計に着手する。彼は、ドイツが再工業化を阻まれ、農業に重点を移さざるを得なくなるのではないかと懸念していた。そこで、農機具を駆動するために四輪駆動とパワーテイクオフ(PTO)を備え、ジャガイモ畑の畝を2列またげる車幅が必要だと考えた。

1945年末、フリードリヒ氏は当時ドイツの大部分を支配していた米軍に試作車の製作許可を求めた。米軍は「軍事目的には適さないだろう」と判断し、許可を出した。この日の米軍担当者は、そのポテンシャルを見抜くことができなかったようだ。

1947年に最初の試作車を完成

フリードリヒ氏は自動車技師から農家に転身したハインリヒ・レスラー氏と共に、1947年に最初の試作車を完成させた。その翌年には『ウニモグ70200』を発表。前後ポータルアクスル、広大な積載スペース、メルセデスの1.7Lディーゼルエンジンを搭載したこの車両は、瞬く間にヒットした。

生産は1949年に開始された。皮肉なことに、生産台数の約10%がスイス軍に供給され、600台が生産された。

その後も開発は続けられ、1950年にはダイムラー・ベンツが事業を買収し、拡大に乗り出す。オリジナルシリーズ(当時は『2010』と呼ばれ、まもなく『401』へと発展する)の開発を継続しつつ、 1955年には農業用ではなく純粋なオフロードトラックとして『404』を投入した。そのシャシーは中央部が窪んだダウンスイープ構造で、スペアタイヤの積載スペースを確保しながら、高いねじれ剛性を実現。過酷なオフロード走行時でも車輪を地面に接地させ続けるのに最適だった。

これが後のモデル開発の先例となった。その後登場した『406』と『421』は、404のオフロード性能と初期の401の農業用途を融合させたモデルであった。

1975年には、ヘビーデューティーシリーズ初のモデルとして『425』が発売された。最大積載量9トン、巨大なボディ、そして角張ったスタイリングは、ライト/ミディアムデューティーのウニモグとは一線を画すもので、道を選ばない走行性能を備えていた。現在のウニモグは425を基に開発され、50年前と外観はほぼ変わらない。

一言で表すなら「万能」

ウニモグを一言で表すなら「万能」だ。大型の水タンクとホースを装着すれば、他の消防車が到達できない山火事の現場へも駆けつけられる。農機具を動かしたいなら、PTOに接続すれば、トラクターよりはるかに速く畑へ向かえる(最高速度は約90km/h)。鉄道車両基地で重い貨車を移動させる際にも、鉄道仕様の車輪を取り付ければ作業開始だ。

実際にウニモグが動いている姿を見れば、きっと目を疑うだろう。驚くほどの傾斜を転倒せずに登ることができ、これほど巨大でありながら想像以上に速く走るのだ。

おそらくこれが、1980年代にウニモグがダカール・ラリーで2度の優勝を果たし、今日まで続くラリーでの人気の理由だろう。ウニモグができないこと、あるいはやらないことは、もはややる価値すらないのかもしれない……。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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